飲食店経営者の皆様、日々の営業お疲れ様です。現場で包丁を握り、お客様の笑顔のために心血を注いできた皆様にとって、「食の安全」や「素材へのこだわり」を伝えることは、何物にも代えがたい「お店の魂」の表現ではないでしょうか。
しかし、その熱い想いを込めたメニューの「一言」が、時に大きな法的リスクを招くことがあります。特に「オーガニック」「無添加」という言葉は、今や消費者の信頼を勝ち取るための強力な武器であると同時に、扱いを誤れば「不当表示」としてブランドを根底から揺るがしかねない諸刃の剣です。
今回は、現場上がりの視点を持ちつつ、経営を守るための守護神として、飲食店が遵守すべき表示ルールの正解を徹底解説します。
目次
なぜ「オーガニック・無添加」の表示ルール遵守が今、飲食店に求められるのか
かつて、飲食店のメニュー表記は「多少の誇張は愛嬌」で済まされていた時代もありました。しかし、現在は違います。
1. 消費者のリテラシー向上とSNSの拡散性
健康志向の高まりにより、お客様は成分表示や産地に対して非常に敏感になっています。もし「オーガニック」と謳いながら根拠がないことが発覚すれば、瞬く間にSNSで拡散され、「嘘をつく店」というレッテルを貼られてしまいます。一度失った信頼を回復するには、数年単位の時間と多大なコストがかかります。
2. 厳格化する行政の監視(景品表示法の強化)
消費者庁は近年、食品表示の適正化に非常に力を入れています。「景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)」における「優良誤認」と見なされれば、措置命令や課徴金の納付、さらには実名の公表といった厳しい罰則が待っています。「知らなかった」では済まされないのが、経営者としての責任です。
「オーガニック・有機」をメニューに書く際の絶対ルール:有機JAS法との関係
「農家さんがオーガニックだと言っていたから」という理由だけで、メニューに「有機野菜のサラダ」と書いてはいませんか? 実は、ここには法的な大きな罠があります。
有機JASマークの鉄則
日本において「有機」や「オーガニック」という言葉を農産物や加工食品に使用するには、農林水産省が定める「有機JAS規格」の認証を受け、「有機JASマーク」を貼付していることが法律上の大前提です。
- NG例: 有機JAS認証を受けていない農家から仕入れた野菜を「オーガニック野菜」と表記する。
- OK例: 有機JAS認証を取得している野菜を仕入れ、それを調理した料理の名称に「有機」を冠する。
飲食店における「料理」としての表示
飲食店で提供する「料理」そのものは、実は有機JAS法の直接的な規制対象外(加工食品ではないため)と解釈されるケースもあります。しかし、景品表示法の観点からは、「実際よりも著しく優良であると誤認させる表示」は禁止されています。
つまり、使用している個々の野菜が有機JAS認証を受けていないのであれば、料理名に「オーガニック」とつけることは、景表法上の「優良誤認」に該当する可能性が極めて高いのです。

「無添加」表示の落とし穴!新ガイドラインで禁止された10の類型とは
2022年、消費者庁から「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」が策定されました。これにより、「無添加」という言葉の使い方が劇的に厳格化されました。特に注意すべき「10の類型」のうち、飲食店が陥りやすいポイントを整理します。
単なる「無添加」表記は原則NG
単に「無添加」とだけ書くことは、何が不使用なのかが不明確であり、消費者に「すべての添加物が入っていない」という過度な期待を抱かせるため、推奨されません。
飲食店が特に注意すべきNG類型
- 「無添加」の単なる強調:
「化学調味料無添加」と大きく書きながら、実際には保存料など他の添加物を使っている場合、消費者を誤認させる恐れがあります。 - 健康・安全を過度に強調する表現:
「無添加だから安心・安全」といった、添加物=悪という印象を植え付ける表現は、科学的根拠がない限り避けるべきです。 - 同一カテゴリーで添加物使用が一般的でないものへの表示:
例えば、もともと添加物を使わないのが一般的な「生鮮食品」に対して「無添加」と謳うことは、不当な強調と見なされます。
「無農薬」「化学調味料不使用」…現場でやりがちなNG表示の具体例
現場の熱意が空回りしてしまいがちな、具体的なNG事例を紹介します。
1. 「無農薬」「減農薬」は禁止用語
実は、農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」により、「無農薬」「減農薬」「無化学肥料」という言葉は表示禁止事項となっています。
なぜなら、これらは「一切の農薬を使っていない」という誤解を与えやすく、また近隣の畑からの飛散(ドリフト)などを完全に否定できないためです。
- 書き換え案: 「特別栽培農産物(節減対象農薬:栽培期間中不使用)」
2. 「究極」「最高級」「日本一」などの誇大表現
客観的な根拠や比較対象がないまま「究極の」「最高級の」といった言葉を使うことは、景表法上の「有利誤認」や「優良誤認」に抵触するリスクがあります。
- 対策: 「〇〇賞受賞」「〇〇県産A5ランク黒毛和牛使用」など、事実に基づいたスペックを淡々と記すほうが、結果として信頼に繋がります。

スタッフ教育も不可欠!口頭説明での「オーガニック」トラブルを防ぐ対策
意外と見落としがちなのが、ホールスタッフによる「口頭での説明」です。メニュー表記が完璧でも、スタッフが誤った情報を伝えてしまえば、それも景表法上の「表示」に含まれます。
現場で起こりうるトラブル事例
お客様から「この野菜はオーガニックですか?」と聞かれ、スタッフが「はい、農家直送のオーガニックです!」と答えた。しかし、実際には有機JAS認証を受けていない「こだわりの慣行栽培」だった場合。これは立派な不当表示になります。
スタッフ教育のポイント
- 「こだわり」と「法規」を分ける: 「オーガニック」という言葉を安易に使わず、「〇〇さんの畑で、農薬を極力抑えて育てられた野菜です」という事実を伝えるように教育します。
- 根拠資料の共有: 仕入れ業者からの納品書や、産地証明書をスタッフがいつでも確認できる状態にしておきましょう。
- 「わからない」と言える環境: 曖昧な知識で回答するくらいなら、「確認してまいります」と言える誠実さが、今の時代のお客様には響きます。
信頼を価値に変える!景表法を守りながら魅力を伝える正しいメニュー作成術
ルールを守ることは「守り」ではありません。正しく伝えることは、最高の「攻め」になります。法的根拠を明確にしつつ、お客様に魅力を伝える書き換えのコツを伝授します。
実践:魅力的な「正解」表記リスト
- ケース1:化学調味料を使っていない場合
- △ 無添加・化学調味料不使用
- ◎ 「化学調味料(アミノ酸等)を使用せずに、天然出汁のみで仕上げました」
- 解説:何を使っていないかを具体的に示し、代わりに何を使っているかを書くことで、価値が伝わります。
- ケース2:農家直送のこだわり野菜の場合(非オーガニック)
- × オーガニック野菜の盛り合わせ
- ◎ 「千葉県・〇〇農園より直送。栽培期間中、農薬や化学肥料を一切使わず育てられた、力強い味わいの野菜たち」
- 解説:「無農薬」という言葉を避け、「栽培期間中不使用」と事実を述べることで、誠実さとこだわりを両立させます。
- ケース3:自家製ドレッシングの場合
- △ 保存料無添加ドレッシング
- ◎ 「店内で毎日手作り。余計な保存料は一切加えず、素材のフレッシュな香りを生かした自家製ドレッシングです」
- 解説:「無添加」を単なる否定語としてではなく、鮮度の証としてポジティブに変換します。
正しい表示のためのチェックリスト
- 使用している食材の「有機JASマーク」の有無を確認したか?
- 農家さんからの「無農薬」という言葉を鵜呑みにせず、栽培実態を確認したか?
- 「無添加」と書く場合、特定の添加物名(保存料、着色料等)を明記しているか?
- 「究極」「最高」など、根拠のない比較表現を使っていないか?
- 納品書や証明書をファイリングし、いつでも提示できる状態か?

まとめ:誠実さは最大のブランディングである
1店舗から3店舗へと規模を拡大していくフェーズでは、オーナーである皆様が現場の細部まで目を光らせることが難しくなってきます。だからこそ、仕組みとしての「コンプライアンス(法令遵守)」が重要になります。
ルールを守ることは、決してお客様へのアピールを弱めることではありません。「ここまで正確に情報を開示しているのか」という誠実な姿勢こそが、目の肥えたお客様の信頼を勝ち取り、リピーターを生み、ひいてはあなたの店を「ブランド」へと押し上げるのです。
料理への想いを、正しい言葉に乗せて届ける。
その一歩が、10年、20年と続く愛される店づくりの礎となります。
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