「もっと広いエリアで勝負したい」「隣県の大型フェスからオファーが来た」
そんな前向きな意欲を持つオーナー様の前に立ちはだかるのが、自治体ごとに異なる「営業許可」という高い壁です。
こんにちは。現場を経験し、現在はキッチンカー経営の伴走者として活動しているアドバイザーです。
料理人出身のオーナー様にとって、保健所との折衝や複雑な書類作成は、現場の仕込み以上に頭を悩ませる作業かもしれません。しかし、営業エリアを広げることは、売上の最大化だけでなく、天候や地域イベントの偏りによる「経営リスクの分散」に直結します。
本稿では、複数の自治体で通用する「最強の車両スペック」の考え方から、事務作業を最小限に抑える申請戦略まで、専門的な視点で徹底解説いたします。
目次
キッチンカーが県境を越える際の大きな壁「営業許可の二重基準」
キッチンカービジネスにおいて、最も誤解されやすいのが「一つの県で許可を取れば、全国どこでも営業できる」という勘違いです。
原則として、飲食店の営業許可は「保健所を設置する自治体単位」で取得する必要があります。例えば、東京都で許可を取っても、隣接する神奈川県や千葉県で営業するためには、それぞれの自治体に対して改めて申請を行い、実地検査をパスしなければなりません。
ここで問題となるのが、いわゆる「二重基準(ダブルスタンダード)」です。
2021年の食品衛生法改正により、営業許可の区分や施設基準は全国的に平準化されました。しかし、今なお、細かな設備解釈や「暗黙の了解」については自治体ごとに差異が残っているのが実情です。
「A県では認められたシンクの形状が、B県では不適合とされる」
「C市では必要なかった手指消毒の専用設備を、D市では厳格に求められる」
こうした現場レベルのズレが、多県展開を目指すオーナー様のコストと時間を奪っていくのです。
【要注意】自治体によって異なる主要な設備チェックポイント
複数の県で営業許可を取得する際、特に衝突しやすい設備基準は以下の3点に集約されます。
1. 給排水タンクの容量と品目制限
これが最大の難所です。多くの自治体では、取り扱う品目や工程に応じてタンク容量(40L、80L、200Lなど)が指定されます。
- 40L程度: 簡易的な調理(盛り付けのみ、単一品目)
- 80L程度: 複数の工程を伴う調理(カット、加熱など)
- 200L程度: 大量の洗浄が必要な場合や、多品目の提供
厄介なのは、「200Lタンクを積まなければ複数メニューの調理を認めない」とする自治体がある一方で、「80Lでも使い捨て容器の徹底で許可を出す」自治体があるなど、運用に幅がある点です。
2. シンク(洗浄槽)の数とサイズ
一般的には「2槽」が標準ですが、自治体によっては「器具洗浄用」「手指洗浄用」に加え、「食材洗浄用」として「3槽」を強く推奨、あるいは義務付けているケースがあります。また、シンク一つの「内寸」に規定がある場合、既存の車両では改修が困難になることも珍しくありません。
3. 蛇口(水栓)の非接触化
近年、衛生管理の観点から「手で触れずに水が出せること」が厳格化されています。
- 足踏み式(フットスイッチ)
- センサー式
- レバー式(肘で操作可能な長さ)
「レバー式ならOK」という県と、「センサー式以外は不可」とする県があるため、越境営業を視野に入れるなら最も厳しい基準に合わせる必要があります。

二度手間を防ぐ!複数県で通用する「最強の標準スペック」とは
これから車両を製作、あるいは大規模な改修を予定しているならば、「最も厳しい自治体の基準」をベースにした「全地域対応型スペック」を目指すべきです。
後から追加改修を行うコストは、初期投資の数倍に膨らむことがあります。以下のスペックを標準装備にすることで、将来的なエリア拡大時のリスクを最小化できます。
実践的な「最強スペック」構成案
- 給排水タンクは「200L」を前提に設計: 大型のポリタンクを積載できるスペースを確保するか、連結して200Lにできる配管構造にしておきます。これにより、ほぼ全ての自治体でメニュー制限を受けずに済みます。
- シンクは「3槽」を配置: 2槽で済む自治体であっても、3槽あれば「より衛生的」と判断され、審査がスムーズに進みます。
- 水栓は「フットスイッチ」または「ロングレバー」: センサー式は故障時の修理が困難な場合があるため、物理的に非接触が保てるフットスイッチが現場では重宝されます。
- 運転席と調理室の「完全区画」: カーテンではなく、パネルや扉による完全な仕切りを設けます。
- 蓋付きのゴミ箱と収納棚: 全ての備品に「定位置」を作り、移動中に露出しない構造にします。
申請コストと時間を節約!効率的な複数自治体への同時申請術
複数県の許可を管理するのは、事務作業として非常に煩雑です。しかし、戦略的に進めることで、オーナー様の負担は大幅に軽減できます。
事務作業を効率化する3つのテクニック
- 「食品衛生申請等システム」の徹底活用
現在、厚生労働省のオンラインシステムにより、共通のIDで複数の自治体へ申請が可能です。紙の書類を何度も書く必要がなくなり、過去の申請内容をコピーできるため、大幅な時短になります。 - 必要書類の「マスターデータ」化
- 車両の平面図(寸法入り)
- 給排水の系統図
- 食品衛生責任者の資格証
- 車検証の写し
これらをPDFでクラウドに保存し、いつでも送付・印刷できる状態にしておきます。
- 「更新期限」の一元管理
Googleカレンダーやリマインダーを利用し、許可が切れる3ヶ月前に通知が来るように設定します。複数の県を持つと「うっかり失効」が最大の経営リスクとなります。

大型フェス出店の必須条件?広域での営業許可がビジネスに与えるメリット
「なぜ、わざわざ苦労してまで多県の許可を取るのか」
その答えは、単なる営業エリアの拡大以上の価値にあります。
1. イベント主催者からの「信頼」という資産
大型フェスや有名商業施設のイベントでは、公募条件に「〇〇県および近隣県の営業許可を既に有していること」が盛り込まれる場合があります。広域での許可保持は、その車両が「厳しい衛生基準をクリアし続けている」というプロフェッショナルとしての証明(クレジット)になるのです。
2. 売上のリスクヘッジ
例えば、自拠点の県が梅雨時でイベントが全滅しても、山を越えた隣県では晴天で大規模な祭りが開催されていることがあります。また、特定の自治体が独自の規制を強化した場合でも、他県という「逃げ道」があれば、事業を止める必要がありません。
仕込み場所のジレンマを解消。県外営業時の食材調達と衛生管理
営業許可が下りても、運用面で保健所から指摘されやすいのが「仕込み場所」の問題です。
県外営業における運用ルール
- 仕込み場所の所在: 原則として、キッチンカー内で認められていない工程(大量の下準備、野菜のカット等)は、保健所の許可を得た「固定店舗(仕込み場所)」で行う必要があります。これは営業先の県にある必要はなく、自拠点の仕込み場所で作成したものを適切に温度管理して搬送すれば問題ありません。
- 現地調達のトレーサビリティ: 現地のスーパーで急遽買い足した食材についても、レシートを保管し「いつ、どこで買ったか」を明確にしておく必要があります。
- 連続営業の制限: 数日間にわたる遠征営業の場合、現地の宿泊先で仕込みを行うことは厳禁です。現地の許可施設(シェアキッチン等)を一時的に契約するか、キッチンカー内での調理工程が完結するメニュー構成に変更するなどの対策が求められます。

まとめ:県またぎ営業を「攻めの投資」に変えるためのチェックリスト
キッチンカーの魅力は「機動力」です。その機動力を行政手続きという鎖で縛ってしまわないよう、今から準備を始めましょう。
以下のステップで、あなたのビジネスを「広域展開モード」へとシフトさせてください。
- 車両図面の再確認: 現在の設備で「200Lタンク」と「非接触水栓」への対応が可能か確認する。
- ターゲット自治体の調査: 遠征したい県の保健所Webサイトを確認、または電話で「現在のスペックで許可が出るか」を事前相談する。
- オンライン申請の環境整備: 「食品衛生申請等システム」にログインし、自社の情報を登録する。
- スケジュールの逆算: フェス出店を狙うなら、開催の2ヶ月前には申請準備を完了させる。
県境を越えることは、新しい顧客との出会いであり、あなたのブランドが次のステージへ進むための大きな一歩です。設備の壁をスマートに突破し、ビジネスの可能性を無限に広げていきましょう。
もし、具体的な自治体ごとの判断基準や、最適な改修業者選びでお困りであれば、いつでも専門家へご相談ください。あなたの「攻め」の姿勢を、全力でバックアップいたします。

