はじめに
若手オーナーの皆様、日々の店舗運営、誠にお疲れ様でございます。料理人としての腕や空間演出へのこだわりを持ちながら、経営という新たな領域で奮闘されていることと存じます。現在、飲食業界は慢性的な人手不足という深刻な課題に直面しており、この状況を乗り越えるため、外国人材の活用が不可欠な選択肢となりつつあります。
しかしながら、「外国人材の採用は手続きが複雑そう」「受け入れ体制の構築が難しいのではないか」「実際にうまくいくのだろうか」といった漠然とした不安や疑問をお持ちの方も少なくないでしょう。本記事では、そのような皆様の不安を解消し、外国人材、特に「特定技能ビザ」を持つ人材の採用から、店舗での実践的な受け入れ体制の構築までを、飲食業界の経営コンサルタントとしての知見に基づき、網羅的に解説いたします。
外国人材の採用は、単なる労働力不足の解消に留まらず、店舗に新たな活気と多様性をもたらし、貴店のブランド価値を高める可能性を秘めています。ぜひ本記事を通じて、外国人材採用を成功させるための具体的なロードマップを描いていただければ幸いです。
特定技能ビザとは?飲食業における外国人採用の基礎知識
日本の労働市場における人手不足に対応するため、2019年4月に創設された在留資格が「特定技能」です。特に飲食業においては、即戦力となる外国人材を安定的に確保するための有効な手段として注目されています。ここでは、特定技能ビザの基本的な枠組みと、他の在留資格との違いについて解説いたします。
特定技能ビザの概要
特定技能ビザは、特定の産業分野において即戦力となる外国人材を受け入れるための制度です。飲食業もこの対象分野に含まれており、外国人材は日本の飲食店で調理、接客、店舗管理などの業務に従事することができます。
特定技能ビザの主な特徴
- 対象分野: 12の特定産業分野(2024年現在)に限定されており、飲食業もその一つです。
- 在留期間: 特定技能1号の場合、通算で最長5年間の在留が可能です。特定の要件を満たせば、特定技能2号への移行も可能となり、在留期間の上限がなくなります。
- 家族の帯同: 特定技能1号の場合、原則として家族の帯同は認められていません。特定技能2号へ移行すると、配偶者と子が帯同可能となります。
- 日本語能力と技能水準: 一定の日本語能力(日本語能力試験N4程度)と、各分野における技能水準(特定技能評価試験合格など)が求められます。
特定技能1号と2号の違い
特定技能ビザには「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類が存在し、それぞれ以下のような違いがあります。
- 特定技能1号:
- 相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
- 飲食業で外国人材を受け入れる際の主要なルートとなります。
- 在留期間は通算で上限5年。
- 家族の帯同は原則不可。
- 特定技能2号:
- 熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
- 特定技能1号で5年間滞在し、さらに高度な技能水準を証明することで移行が可能です。
- 在留期間の上限はなく、永住権への道も開かれます。
- 家族(配偶者、子)の帯同が可能です。
飲食店の若手オーナー様がまず検討すべきは、特定技能1号での採用となります。
他の在留資格との比較
外国人材を雇用するための在留資格は特定技能以外にも複数存在しますが、飲食業での採用においては特定技能が特に適しています。
- 技能実習:
- 日本の技術や知識を開発途上国に移転することを目的とした制度であり、労働力不足の解消を直接の目的とはしていません。
- 業務内容や転職に制限が多いのが特徴です。
- 留学(資格外活動許可):
- 留学生が学業の傍らアルバイトとして働くための在留資格です。
- 週28時間以内という労働時間制限があり、フルタイムでの雇用はできません。
- 卒業後は原則として帰国するか、他の就労ビザへの切り替えが必要です。
- 特定活動(ワーキングホリデーなど):
- 特定の活動を行うために与えられる在留資格で、国籍や年齢に制限がある場合があります。
- 在留期間が短く、長期的な雇用には不向きなケースが多いです。
- 技術・人文知識・国際業務:
- 専門的な知識や技術を要する業務に従事するための在留資格です。
- 通訳、翻訳、広報、商品開発などの業務に限定され、一般的な調理やホール業務には適用されません。
特定技能ビザは、これらと比較して、飲食業での「即戦力」としての雇用を可能にし、安定した期間の在留を認める点で、人手不足に悩む飲食店にとって最も現実的かつ有効な選択肢であると言えるでしょう。
特定技能ビザ取得のためのステップバイステップガイド
特定技能ビザを持つ外国人材を採用する際、企業側にはいくつかの要件が求められ、また複雑な申請手続きが必要となります。ここでは、若手オーナー様がスムーズに採用を進められるよう、具体的なステップと注意点を解説いたします。
1. 企業(受入れ機関)側の要件
特定技能外国人を受け入れるためには、まず企業側が以下の要件を満たす必要があります。
- 雇用契約:
- 特定技能外国人に対する報酬額が、日本人と同等以上であること。
- 残業手当など、労働基準法に準拠した雇用条件であること。
- 特定技能外国人が従事する業務が、特定技能の活動内容に合致していること。
- 支援体制:
- 特定技能外国人に対する「生活支援」を適切に実施できる体制が整っていること。具体的には、住居の確保支援、銀行口座開設支援、日本語学習機会の提供などが挙げられます。
- この支援業務は、自社で実施するか、「登録支援機関」に委託することができます。
- 労働関係法令の遵守:
- 過去1年以内に労働基準法違反などで罰則を受けていないこと。
- 社会保険や労働保険への適切な加入状況であること。
2. 外国人材側の要件
外国人材が特定技能ビザを取得するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 技能水準:
- 飲食料品製造業または外食業の「特定技能評価試験」に合格していること。
- または、技能実習2号を良好に修了していること。
- 日本語能力:
- 日本語能力試験(JLPT)N4以上、または国際交流基金日本語基礎テストに合格していること。
- または、技能実習2号を良好に修了していること(日本語能力は免除されます)。
- 健康状態:
- 日本での就労に支障がない健康状態であること。
- 犯罪歴など:
- 日本及び本国において、刑罰法令に違反したことがないこと。
- 過去に退去強制歴がないことなど。
3. 特定技能ビザ申請の具体的な流れ
特定技能ビザの申請は、以下のステップで進められます。
実践方法(箇条書き):
- 採用活動の開始:
- ハローワーク、外国人材専門の求人サイト、または人材紹介会社を通じて、特定技能外国人材を募集します。
- 登録支援機関を通じて、候補者を紹介してもらう方法も効率的です。
- 雇用契約の締結:
- 採用が決定したら、雇用契約書を作成し、特定技能外国人材と締結します。この際、前述の企業側の要件を満たす内容であることを確認してください。
- 支援計画の策定:
- 特定技能外国人材が日本で円滑に生活・就労できるよう、「特定技能外国人支援計画」を策定します。
- この計画には、入国前のオリエンテーション、住居確保支援、銀行口座開設支援、日本語学習機会の提供、相談・苦情対応などの具体的な内容を盛り込みます。
- 自社で支援を行うか、登録支援機関に委託するかを決定します。
- 在留資格認定証明書交付申請(海外在住の場合):
- 外国人材がまだ日本にいない場合、地方出入国在留管理局に「在留資格認定証明書交付申請」を行います。
- 必要な書類は多岐にわたりますが、主に以下の書類が含まれます。
- 在留資格認定証明書交付申請書
- 特定技能外国人雇用契約書
- 特定技能外国人支援計画書
- 企業(受入れ機関)に関する資料(商業登記簿謄本、決算書類など)
- 外国人材に関する資料(パスポート、履歴書、技能・日本語試験合格証明書など)
- 登録支援機関との契約書(委託する場合)
- 査証(ビザ)の取得:
- 在留資格認定証明書が交付されたら、外国人材は本国の日本大使館または総領事館で査証(ビザ)の申請を行います。
- 入国・在留カードの交付:
- 外国人材が日本に入国する際、空港で在留カードが交付されます。
- 入国後、住所地の市区町村役場で転入届を提出し、住民票を作成します。
- 在留資格変更許可申請(日本国内にいる場合):
- すでに日本に在留している外国人材(例:留学ビザから特定技能への変更)の場合、地方出入国在留管理局に「在留資格変更許可申請」を行います。
- この場合も、上記4で挙げた書類に加えて、現在の在留カードやパスポートなどが必要となります。
4. 登録支援機関の活用
特定技能外国人材の受け入れは、企業側にとって多くの手続きと支援業務を伴います。特に、人手不足で多忙な若手オーナー様にとって、これらの業務は大きな負担となる可能性があります。そこで活用を検討いただきたいのが「登録支援機関」です。
登録支援機関の役割とメリット(箇条書き):
- 支援計画の実施: 法務省令で定められた支援計画の全てまたは一部を、受入れ機関に代わって実施します。
- 書類作成支援: 在留資格申請に必要な書類作成をサポートします。
- 日本語学習支援: 外国人材の日本語能力向上をサポートする機会を提供します。
- 生活相談: 外国人材からの生活や仕事に関する相談に応じ、必要な情報提供や助言を行います。
- トラブル対応: 万一のトラブル発生時にも、専門的な知見から適切な対応を支援します。
- コストと手間を削減: 自社で支援体制を構築するよりも、専門機関に委託することで時間的・人的コストを削減し、本業に集中できます。
- 法令遵守の安心感: 特定技能制度に関する最新の情報に基づき、法務省令を遵守した適切な支援が期待できます。
登録支援機関を選ぶ際は、飲食業における支援実績、サポート体制、費用などを比較検討し、信頼できる機関と契約することが重要です。

外国人材を受け入れるための実践的体制構築
特定技能ビザの申請が完了し、外国人材が貴店に加わることになっても、それで終わりではありません。彼らが貴店の一員として活躍し、長期的に定着するためには、受入れ側の体制構築が非常に重要です。ここでは、実践的な視点から、外国人材を受け入れるための具体的な方法を解説します。
1. 受け入れ前の準備
外国人材が安心して働き始められるよう、受け入れ前から以下の準備を進めておきましょう。
実践方法(箇条書き):
- 社内理解の醸成と意識統一:
- 日本人スタッフ全員に対し、外国人材を受け入れる目的、特定技能制度の概要、多文化共生の重要性について説明会を実施します。
- 文化や習慣の違いから生じうる誤解や偏見をなくし、お互いを尊重し協力し合う職場環境を構築する意識を共有します。
- 外国人材への接し方や「やさしい日本語」の使用を促す研修も有効です。
- 住居の確保と初期生活支援の準備:
- 外国人材が日本で生活を始めるための住居(賃貸物件、社員寮など)を確保します。
- 入国後のスムーズな生活開始のため、以下の支援を準備します。
- 役所への転入届や国民健康保険加入の手続き
- 銀行口座の開設
- 携帯電話の契約
- 電気、ガス、水道などのライフラインの契約
- 近隣のスーパーや病院、公共交通機関の案内
- 業務マニュアルの多言語化・視覚化:
- 調理手順、接客マニュアル、清掃手順など、基本的な業務マニュアルを多言語化(英語、ベトナム語、ネパール語など、採用する外国人材の母国語)します。
- 写真やイラストを多用し、視覚的に分かりやすいマニュアルにすることで、言語の壁を越えた理解を促進します。
- 緊急連絡網の整備:
- 本人や本国の家族、登録支援機関、大使館など、緊急時に連絡を取るべき連絡先リストを作成し、共有します。
2. 採用後の育成と定着
外国人材が貴店で能力を最大限に発揮し、長期的に定着するためには、継続的な育成と配慮が不可欠です。
実践方法(箇条書き):
- 効果的なOJT(On-the-Job Training)の実施:
- 入社後、責任者や教育担当者を明確にし、マンツーマンで具体的な業務内容を指導します。
- 一度に多くのことを詰め込まず、ステップバイステップで習得できるようなカリキュラムを作成します。
- 「できたこと」を具体的に褒め、自信をつけさせることが重要です。
- 日本語学習機会の提供:
- 業務でのコミュニケーション向上はもちろん、日常生活の質を高めるためにも日本語学習は重要です。
- 勤務時間外に日本語教室への通学を推奨したり、職場で簡単な日本語学習教材を提供したりします。
- 日本人スタッフとの交流を通じて、自然な形で日本語を習得できる機会を設けます。
- 文化・習慣への配慮と理解:
- 外国人材の出身国の文化や宗教、習慣(食事の禁忌、祈りの時間、祝日など)を理解し、可能な範囲で配慮します。
- 特にハラル対応の食品や、特定の食材を使用しない調理法などを知っておくことは、厨房でのコミュニケーションにも繋がります。
- 休暇申請などに関しても、本国の重要なイベントなどを考慮し、柔軟に対応する姿勢が求められます。
- 定期的な面談とフィードバック:
- 定期的に個別面談を実施し、仕事の進捗状況、困っていること、不満などをヒアリングします。
- 一方的な指導ではなく、外国人材の意見や提案にも耳を傾け、双方向のコミュニケーションを心がけます。
- 業務改善やキャリアアップに関する具体的なフィードバックを提供し、モチベーションを維持します。
- キャリアパスの提示:
- 特定技能1号の5年間だけでなく、その先の特定技能2号への移行や、将来的なキャリアアップの可能性について説明します。
- 外国人材が長期的な視点で貴店でのキャリアを考えられるよう、具体的な目標設定を支援します。
3. トラブル発生時の対応
予期せぬトラブルが発生した場合でも、冷静かつ迅速に対応できる体制を整えておくことが重要です。
実践方法(箇条書き):
- 相談窓口の設置:
- 外国人材が仕事や生活で困った際に、気軽に相談できる窓口(担当者、登録支援機関の連絡先など)を明確にします。
- 匿名での相談も受け付けるなど、外国人材が安心して声を上げられるような配慮をします。
- 緊急時対応マニュアルの整備:
- 病気や怪我、事故、災害発生時など、緊急時の対応フローを明文化し、日本人スタッフと外国人材の両方に共有します。
- 病院への同行支援、保険会社への連絡、警察への通報手順など、具体的に定めます。
- 労働トラブルへの対応:
- 賃金未払いやハラスメントなど、労働に関するトラブルが発生した場合は、速やかに事実関係を確認し、労働基準監督署や弁護士などの専門機関と連携して対応します。
- 登録支援機関は、こうしたトラブル解決の際にも重要な役割を担います。
外国人採用を成功させるための経営戦略
外国人材の採用は、単なる人手不足の解決策に留まらず、貴店の経営を強化し、持続的な成長を促すための重要な戦略となり得ます。若手オーナーの皆様が目指す「料理や空間へのこだわり」と「店を通じて伝えたい想い」を実現するために、外国人材がどのように貢献できるかを考えてみましょう。
人材不足解消以上のメリット
外国人材の採用は、直接的な労働力確保に加えて、以下のような多角的なメリットをもたらします。
- 多様な視点とイノベーション:
- 異なる文化背景を持つ外国人材は、既存の店舗運営にはなかった新たな視点やアイデアをもたらすことがあります。メニュー開発、接客サービス、店舗デザインなど、様々な分野でイノベーションのヒントとなる可能性を秘めています。
- 顧客層の拡大:
- 外国人材の母国語での対応や、彼らの文化に配慮したサービス提供は、訪日外国人観光客や在日外国人 resident など、新たな顧客層の獲得に繋がります。多言語対応可能なスタッフは、インバウンド戦略においても大きな強みとなります。
- 従業員のモチベーション向上と多文化理解:
- 日本人スタッフと外国人スタッフが協力して働くことで、互いの文化や価値観を理解し、尊重する心が育まれます。これにより、職場の雰囲気が活性化され、日本人スタッフ自身のグローバルな視点やコミュニケーション能力の向上にも繋がります。
- ブランドイメージの向上:
- 多様な人材を積極的に受け入れ、国際色豊かな職場環境を構築していることは、社会的に高い評価を受け、企業のブランドイメージ向上に貢献します。
長期的な視点での人材育成とコストパフォーマンス
外国人材の採用には、ビザ申請費用や登録支援機関への委託費用など、初期投資が必要となります。しかし、これを「コスト」ではなく「未来への投資」と捉えることが重要です。
- 定着率の向上と採用コストの削減:
- 適切な支援と育成を行うことで、外国人材は貴店に長く定着し、採用を繰り返す手間やコストを削減できます。一度育てた人材は、貴店の貴重な財産となり、店舗運営の安定に寄与します。
- 生産性の向上と利益率改善:
- 人手不足が解消され、安定した人員配置が可能になることで、サービスの質が向上し、機会損失を防ぐことができます。また、外国人材の真面目さや勤勉さは、店舗全体の生産性向上にも貢献し、結果として売上向上と利益率の改善に繋がります。
- 人材育成のノウハウ蓄積:
- 外国人材を育成する過程で得られるノウハウは、日本人スタッフの育成にも応用可能であり、店舗全体のマネジメント力向上に貢献します。
若手オーナーの皆様が抱える「売上はあるが利益が出ない」「スタッフ育成に不安」といった悩みも、外国人材の積極的な活用と適切なマネジメントを通じて、解決の糸口を見出すことができるでしょう。
まとめ
本記事では、飲食店の外国人採用を成功させるための「特定技能ビザ」に関する手続きから、実践的な受け入れ体制の構築、さらには長期的な経営戦略までを網羅的に解説いたしました。
人手不足が深刻化する飲食業界において、外国人材の活用はもはや選択肢ではなく、持続的な成長のための不可欠な戦略であると言えます。複雑に感じられる手続きも、登録支援機関のような専門家のサポートを得ることで、円滑に進めることが可能です。
そして何より重要なのは、単なる労働力としてではなく、貴店の貴重な「人財」として外国人材を迎え入れ、彼らが安心して働き、成長できる環境を整えることです。文化や習慣の違いを理解し、尊重し合う多文化共生の職場は、外国人材だけでなく、日本人スタッフにとっても刺激となり、店舗全体に新たな活気をもたらすことでしょう。
貴店の「料理や空間へのこだわり」そして「店を通じて伝えたい想い」は、多様な背景を持つスタッフによって、より豊かな形で表現され、より多くの顧客へと届けられるはずです。外国人材の採用は、貴店の未来を拓く新たな一歩となることでしょう。
特定技能ビザの申請手続きや具体的な受け入れ体制の構築について、さらに詳細な情報や個別の相談をご希望される場合は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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