目次
はじめに
若手オーナーの皆様、日々の店舗運営、本当にお疲れ様でございます。厨房に立ち、お客様と向き合い、時には経営の数字に頭を悩ませる。私もかつては同じ道を歩んできましたので、皆様の奮闘は痛いほどよく分かります。
特に、今の飲食業界において、避けては通れないのが「人材」に関する課題ではないでしょうか。「人が足りない」「なかなか応募が来ない」「せっかく採用してもすぐに辞めてしまう」――こういった声は、本当に多く耳にします。売上は上がっているのに利益が出ない、その原因の一つが人件費や採用コストであることも珍しくありません。
しかし、ご安心ください。人材不足は、単なる労働人口減少だけが原因ではありません。多くの場合、求人方法、ひいては「採用戦略」に改善の余地があるのです。
本記事では、私がこれまでに培ってきた経験とノウハウに基づき、飲食店の皆様が「理想の仲間」と出会い、共に店舗を成長させていくための実践的な求人戦略と具体的なノウハウを惜しみなく提供いたします。単なる募集ではなく、貴店の未来を創る「採用」のために、ぜひ本ガイドをご活用いただければ幸いです。
1. 飲食店の求人が抱える現状と本質的な課題
現在の飲食業界は、慢性的な人手不足という深刻な課題に直面しています。少子高齢化による労働人口の減少に加え、飲食業界に対する「労働時間が長い」「給与が低い」「休みが少ない」といったネガティブなイメージが、求職者の選択肢から外れる一因となっているのも事実です。
しかし、私が常々お伝えしているのは、応募が集まらないのは単なる「人手不足」だけが原因ではない、ということです。皆様の店舗が抱える求人の本質的な課題は、以下の点にある場合が多いと認識しています。
- 競合店の存在と魅力の差: 求職者は、給与や労働条件だけで店舗を選びません。ブランドイメージ、経営者の理念、働く環境、キャリアパスなど、多様な要素を総合的に比較検討しています。貴店独自の「魅力」を明確に伝えきれていない場合、競合に埋もれてしまう可能性があります。
- 情報発信の不足・魅力の伝え方不足: 素晴らしい料理、温かい空間、情熱的なオーナー、個性豊かなスタッフがいても、それが求職者に伝わっていなければ意味がありません。情報を発信する量、そして「刺さる」伝え方が不足していると、応募に繋がりません。
- 採用戦略の欠如: 多くの店舗は「人が足りないから募集する」という場当たり的な対応になりがちです。しかし、誰に、何を、どこで、どのように伝えるのかという「採用戦略」がなければ、いくら求人広告を出しても期待する効果は得られません。
これからの時代、飲食店の求人は、単なる「募集」ではなく、貴店の未来を共に創っていく仲間を見つけるための「採用戦略」として捉えるべきなのです。
2. 応募が集まる店が実践する「採用戦略」の全体像
応募が集まる店舗は、明確な「採用戦略」を持っています。これは、貴店が「誰に」「何を」「どこで」「どのように」伝えるかを戦略的に設計することに他なりません。具体的には、以下のステップで進めていくことを推奨いたします。
ステップ1:採用ターゲットの明確化(ペルソナ設定)
まず、どのような人材を求めているのかを具体的に言語化します。
- 求める人物像: 年齢層、性格、職務経験、スキル(料理スキル、接客スキル、マネジメント経験など)、価値観(チームワークを大切にする、向上心がある、顧客志向など)。
- 正社員とアルバイトで異なるターゲット設定: 正社員であればキャリア志向、店舗の長期的な成長に貢献できる人材。アルバイトであれば、シフトの融通、学業や本業との両立、特定の時間帯に勤務できる人材など、求める要素は異なります。
例:「20代後半~30代前半の、他業種でのリーダー経験があり、将来的に自分のお店を持ちたいと考えている正社員」「主婦層で、子供が学校に行っている平日のランチタイムに週3日程度勤務できるアルバイト」といった具体的なイメージを持つことが重要です。
ステップ2:自店舗の魅力の言語化(USPの明確化)
貴店で働く「特別な理由」は何でしょうか?これを明確に言語化することが、求職者に響くための最重要ポイントです。
- 「なぜうちで働くべきなのか」: 単なる給与や労働条件ではない、貴店ならではの魅力を洗い出します。
- 洗い出すべき魅力の例:
- 料理・空間へのこだわり: 貴店のコンセプト、使用している食材、提供する料理への情熱、こだわりの空間デザインなど。
- 経営者の想い・ビジョン: 店舗を通じて社会に貢献したい、お客様に最高の体験を提供したいといった経営者の熱い想い。
- スタッフ: チームワークの良さ、個性豊かなメンバー、アットホームな雰囲気。
- 働き方: シフトの柔軟性、多様な働き方への対応、残業削減への取り組み。
- 将来性・成長機会: 新規店舗展開の予定、スキルアップ支援、キャリアアップの機会、独立支援。
- 福利厚生: 食事補助、交通費、社会保険完備はもちろん、独自の福利厚生(研修制度、社員旅行など)。
これらの魅力を具体的に伝えることで、求職者は貴店で働くメリットをイメージしやすくなります。
ステップ3:採用チャネルの選定と最適化
ターゲット層がどこで求人情報を探しているのかを考慮し、費用対効果の高いチャネルを選びます。
- インターネット求人サイト(Indeed, ホットペッパーグルメ外食総研など)
- SNS(Instagram, X, Facebookなど)
- 自社ウェブサイト・採用サイト
- 店内告知、顧客紹介制度(リファラル採用)
- ハローワーク、専門学校、地域コミュニティ
ステップ4:求人情報の作成と発信
ターゲットに響くメッセージと魅力的な表現で求人情報を作成し、選定したチャネルで発信します。
- 目を引くタイトル
- 貴店の魅力が伝わる写真や動画
- 具体的な仕事内容とやりがい
- 明確な給与・待遇、勤務時間・休日
- 入社後のキャリアパス
ステップ5:応募から定着までの設計
採用活動は、応募者を迎えて終わりではありません。入社後の定着を見据えた設計が重要です。
- 迅速な応募対応、丁寧な面接
- 入社後のオンボーディング(教育・研修)
- 定期的なコミュニケーションとフィードバック
これらのステップを戦略的に実行することで、貴店は「理想の仲間」との出会いを格段に増やし、店舗の成長を加速させることができるでしょう。

3. 今すぐ実践できる!効果的な採用チャネル活用術
ここからは、具体的な採用チャネルごとの活用術について解説いたします。媒体の特性を理解し、貴店の採用ターゲットに合わせて効果を最大化しましょう。
3-1. 自社ウェブサイト・採用サイトの強化
貴店のウェブサイトは、求職者にとって「店舗の顔」であり、最も信頼性の高い情報源です。ブランドイメージを確立し、深い情報を伝える場として活用します。
- 実践ポイント
- 「採用情報」専用ページの設置: トップページからアクセスしやすい場所に明確な導線を設けます。
- 店舗の雰囲気、スタッフの紹介写真・動画: 実際の職場の雰囲気や働くスタッフの笑顔、日々のまかない風景などを写真や動画で魅力的に伝えます。
- 代表メッセージ、ビジョン: 経営者の想い、店舗のビジョン、こだわりを率直に語ることで、求職者の共感を誘います。
- 具体的な仕事内容、一日の流れ: 抽象的な表現ではなく、具体的な業務内容や1日のタイムスケジュールを提示し、入社後のイメージを湧かせやすくします。
- 福利厚生、給与体系、キャリアパスの明示: 安心して働ける環境であることを明確に示し、将来の成長機会やキャリアアップの道筋を具体的に伝えます。
- 応募フォームの設置、CTAの最適化: 応募へのハードルを下げ、スムーズに応募できるフォームを設置し、「今すぐ応募する」などの明確なCTA(Call To Action)を配置します。
3-2. SNS(Instagram, Xなど)の積極活用
特に若年層や現場スタッフは、SNSを通じて情報収集する傾向が強いです。貴店の日常や魅力をリアルタイムで発信し、親近感を持ってもらいましょう。
- 実践ポイント
- 採用専用アカウントの開設or既存アカウントでの定期発信: 既存アカウントで発信する際は、採用関連の投稿に一貫したハッシュタグを使用するなど、見つけやすい工夫を凝らします。
- 日々の店舗の様子、スタッフの働く姿、まかないなどのリアルな情報: 業務風景だけでなく、休憩中の和やかな様子やスタッフ同士の交流、こだわりのまかないなど、働く人の「生の声」が伝わるコンテンツが有効です。
- ストーリーやリール機能を活用した動画コンテンツ: 短尺動画で店舗の魅力をダイナミックに伝え、視覚的な訴求力を高めます。
- ハッシュタグの戦略的利用: 「#〇〇(店舗名)求人」「#飲食求人」「#ホールスタッフ募集」「#調理師募集」「#まかない付き」など、ターゲットが検索しそうなハッシュタグを複数使用します。
- DMでの問い合わせ対応: 質問や応募希望のDMには迅速かつ丁寧に対応し、求職者との接点を大切にします。
3-3. 大手求人サイト(indeed, ホットペッパーグルメ外食総研など)の効果的な使い方
幅広い層にアプローチでき、認知度向上に繋がるのが大手求人サイトです。競合が多い中で埋もれない工夫が求められます。
- 実践ポイント
- 複数サイトの比較検討と利用: ターゲットとする人材層が多く利用しているサイトを見極め、複数サイトを併用することでリーチを最大化します。
- 検索キーワード対策(SEO): 求職者が検索しそうなキーワード(「飲食店 正社員」「カフェ バイト 時給」「ホールスタッフ 東京」など)をタイトルや本文に盛り込み、検索上位表示を目指します。
- 目を引くタイトルと詳細な業務内容の記述: 数ある求人の中から目を引くキャッチーなタイトルと、読めば働くイメージが湧く具体的な業務内容を記載します。
- 写真や動画の活用: 無料掲載枠でも写真や動画を掲載できる場合は積極的に活用し、視覚的な魅力を高めます。
- 応募ハードルの引き下げ(クリック数向上策): 「未経験者歓迎」「履歴書不要」「履歴書は後日でOK」など、応募の敷居を下げる言葉を盛り込み、まずはクリックしてもらえるような工夫をします。
3-4. 店内告知・リファラル(紹介)採用の促進
最も質の高い人材が集まる可能性を秘めているのが、既存のネットワークを活用した採用方法です。
- 実践ポイント
- 顧客向けポスター・チラシ設置: 「一緒に働く仲間を募集しています!」といったメッセージとともに、具体的な募集内容やQRコードなどを記載したポスターやチラシを店内に設置します。貴店のファンのお客様から紹介される人材は、店舗への理解度や共感が高い傾向にあります。
- スタッフ紹介制度の導入(インセンティブ設計): 既存スタッフからの紹介を促進するため、紹介料や入社祝い金などのインセンティブ制度を設けます。優秀なスタッフは、そのネットワークも優秀である可能性が高いです。
- 友人・知人への声かけ依頼: 信頼できるスタッフには、積極的に友人や知人への声かけを促します。
3-5. その他チャネル(ハローワーク、専門学校、地域コミュニティなど)
特定のターゲットに特化したチャネルも有効です。
- ハローワーク: 地域密着型で、特定の年齢層やブランクのある方にもリーチしやすい。
- 専門学校・大学: 新卒やインターンシップ生を募集する際に有効。学校との連携を深めることで、継続的な人材確保に繋がる可能性があります。
- 地域コミュニティ、フリーペーパー: 地域に根ざした店舗であれば、地域住民へのアプローチに効果的です。
これらのチャネルを貴店の状況や採用ターゲットに合わせて組み合わせ、多角的にアプローチすることが成功への鍵となります。
4. 応募者が「働きたい」と魅力を感じる求人票の書き方
どんなに素晴らしい採用戦略を立てても、求人票そのものが魅力的でなければ、応募には繋がりません。求職者は、給与だけでなく「そこで働く価値」を求めています。貴店の魅力を最大限に伝える求人票の書き方を習得しましょう。
- 実践ポイント
- タイトル:
- ターゲットに響くキャッチーなフレーズを冒頭に置きます。
- 例:「未経験歓迎!週2日~OK!まかない自慢のカフェで笑顔とコーヒーを届けませんか?」「【月8日休み】本気で料理を極めたい方へ。独立支援ありの成長できる和食店で働きませんか?」
- 導入文:
- 貴店の理念・ビジョン、店舗のこだわりを簡潔に伝えます。
- 求職者が「この店で働きたい」と直感的に思えるような、情熱や個性が伝わる文章を心がけます。
- 仕事内容:
- 具体的な業務内容を分かりやすく記述します。
- 「ホール業務全般」「調理業務全般」だけでなく、「お客様のご案内、オーダー、料理提供、ドリンク作成、会計、清掃」「仕込み、調理、盛り付け、新メニュー開発補助」など、具体的に何をするのかを明記します。
- 業務の「やりがい」や「面白さ」も添えると良いでしょう。
- 働くメリット:
- 他社にはない貴店独自の強みや、働くことで得られるメリットを具体的に提示します。
- 「スキルアップ支援あり」「独立支援制度」「まかないは毎日変わるシェフの特製料理」「人間関係が非常に良好」など。
- 求める人物像:
- 明確な期待値を示し、ミスマッチを防ぎます。「未経験でもOK!素直で学ぶ意欲のある方」「お客様との会話を楽しめる方」「チームワークを大切にする方」など、貴店が求める人柄を具体的に記載します。
- 給与・待遇:
- 明確に、かつ誠実に記載します。月給制か時給制か、交通費の有無、昇給・賞与の実績や評価制度、社会保険完備、有給休暇の取得状況など、働く上で重要な情報は隠さずに全て開示します。
- 「月給25万円~40万円 ※経験・能力により優遇」のように、幅を持たせて実績に応じた評価があることを示唆するのも良いでしょう。
- 勤務時間・休日:
- シフト制であればその旨、休憩時間、有給休暇の取得実績などを具体的に記載します。
- 「週休2日制(月8日休み)」「連休取得も可能」「残業は月平均〇時間程度」など、働くイメージが湧きやすい情報を提供します。
- 応募方法・選考プロセス:
- 簡潔に、分かりやすく記載します。応募から採用までの流れをステップで示すと親切です。
- 「ウェブサイトの応募フォームより」「お電話にてお問い合わせください」など、具体的な方法を明記します。
- 写真・動画:
- 求人票の印象を大きく左右するのがビジュアルです。店舗の外観・内観、料理、働くスタッフの笑顔、まかないなど、職場の雰囲気が伝わる魅力的な写真を複数枚掲載します。可能であれば動画も活用しましょう。
- タイトル:
これらの要素を盛り込むことで、求職者は貴店の魅力を多角的に理解し、「ここで働きたい」という意欲を掻き立てられることでしょう。

5. 採用後の定着を見据えた面接とフォローの重要性
求人活動は、応募者を採用して終わりではありません。むしろ、そこからが貴店と新しい仲間との物語の始まりです。採用後の定着を見据えた、丁寧な面接と継続的なフォローが、長期的な人材確保には不可欠です。
- 実践ポイント
- 迅速な応募対応:
- 応募があったら、24時間以内を目安に一次連絡(応募受付完了通知、面接日程調整の打診など)を入れましょう。
- レスポンスの速さは、貴店の誠実さや求職者へのリスペクトを示すものです。チャンスロスを防ぐためにも、迅速な対応を心がけてください。
- 面接での見極めと相互理解:
- 面接は、求職者のスキルや経験だけでなく、人柄や価値観が貴店の文化に合致するかを見極める重要な場です。
- 貴店のビジョン・理念を伝える: 一方的に質問するだけでなく、貴店の経営理念や目指す方向性、こだわりを熱意を持って伝えます。これにより、求職者は入社後のイメージを具体的に持ち、共感度が高まります。
- 応募者の「働く理由」を深掘り: なぜ貴店に応募したのか、将来的に何をしたいのか、どんな働き方を求めているのかなど、応募者の本音や意欲を引き出す質問を投げかけます。
- 相互理解を深める質問: 応募者からの質問にも丁寧に答える時間を取り、給与や待遇だけでなく、貴店の働きがいや成長機会についても具体的に説明します。
- 採用後のフォロー:オンボーディングの設計:
- 入社後の早期離職を防ぐためには、入社時の手厚いサポートが不可欠です。
- OJT(On-the-Job Training): 新しい環境に慣れるまで、先輩スタッフが丁寧に業務を教え、質問しやすい雰囲気を作ります。
- 定期面談: 入社後1ヶ月、3ヶ月など定期的に面談の機会を設け、困っていることや疑問点を解消できる場を作ります。
- 成長の機会提供: 期待する役割やキャリアパスを明確にし、スキルアップ研修や資格取得支援など、成長を実感できる機会を提供します。
- コミュニケーションの活性化: 歓迎会や社内イベントなどを通じて、新しい仲間がチームに溶け込みやすい環境を整えます。
- 迅速な応募対応:
採用は「人」に対する投資であり、貴店の未来を創るための重要なステップです。これらの取り組みを通じて、採用した人材が長期的に定着し、貴店の戦力として活躍できる環境を整えていくことが、経営者としての皆様の次なるミッションとなるでしょう。
まとめ:未来の店舗を創る「人」への投資
皆様、今回の「飲食店の効果的な求人方法」に関する実践ガイド、いかがでしたでしょうか。
人材の確保は、単に「欠員を補充する」という短期的な視点ではなく、「未来の店舗を共に創る仲間を見つける」という長期的な投資として捉えるべきです。私も、現場で多くの壁にぶつかりながら、最終的には「人」こそが店の価値を最大化するのだと痛感してまいりました。
貴店のこだわり抜いた料理や空間、そして経営者としての熱い想いは、きっと求職者にも響くはずです。その魅力を最大限に引き出し、戦略的に発信することで、貴店のビジョンに共感し、共に成長してくれる「理想の仲間」との出会いは必ず実現します。
「人」への投資は、時にコストがかかるように見えるかもしれません。しかし、質の高い人材を確保し、定着させることができれば、長期的に見れば人件費の最適化、生産性の向上、サービスの質の向上、ひいては売上と利益の増加に直結します。それは、貴店が永続的に発展していくための、最も確実な道であると確信しております。
貴店の「理想の仲間」と出会い、共に店舗の新たな歴史を築いていかれることを、心より願っております。

