飲食店の多店舗展開|2店舗目以降で失敗しないための注意点

はじめに

この度は、多忙な経営の合間を縫って本稿をご覧いただき、誠にありがとうございます。
1店舗目の成功を足がかりに、いよいよ2店舗目、3店舗目と、飲食店の多店舗展開をお考えのことと存じます。現場で腕を磨き、ご自身の想いを形にしたお店が繁盛している姿を見るのは、経営者として最高の喜びでしょう。その情熱と努力に、心より敬意を表します。

しかし、多店舗展開は、1店舗目の成功体験だけでは乗り越えられない、新たな壁が立ちはだかるのも事実です。特に「2店舗目の壁」は、多くのオーナー様が直面し、その後の成長を左右する大きな分岐点となります。1店舗目が順調だからといって、安易な気持ちで多店舗展開を進めると、売上は伸びても利益が残らない、スタッフが定着しない、品質が落ちるなど、様々な問題に直面するリスクが伴います。

本稿では、皆様が描く未来の実現のため、飲食業界の経営コンサルタントとして、そして現場を経験してきた先輩オーナーの一人として、多店舗展開、特に2店舗目以降で失敗しないための実践的な注意点と具体的なステップを解説いたします。売上は立つものの利益が出ない、スタッフ育成や数字管理に不安があるといったお悩みを抱えるオーナー様にとって、本稿が新たな一歩を踏み出すための羅針盤となることを願っております。

多店舗展開における「2店舗目の壁」とは?

1店舗目の経営が軌道に乗り、「この勢いで次のお店も」とお考えになるのは自然なことです。しかし、多店舗展開は単に店舗数を増やすことではありません。そこには、1店舗目の経営とは根本的に異なる「2店舗目の壁」が存在します。この壁の正体を知り、適切に対処することが、その後の多店舗展開の成否を分けます。

1店舗目と2店舗目以降の経営の違い

1店舗目の経営は、良くも悪くもオーナー様の「属人化」が強みとなり得ます。オーナー様自身の料理の腕、接客術、顧客との信頼関係、そして何よりその熱意が、お店の魅力の核となるからです。しかし、2店舗目以降では、オーナー様が全ての店舗に常駐することは物理的に不可能となります。

この段階で求められるのは、オーナー様の分身となる「仕組み」と「人」の育成です。

  • 経営スタイルの変化: 1店舗目では現場のプレイングマネージャーとしての役割が大きかったオーナー様も、2店舗目以降では、現場の指揮官から全体の戦略を立案し、各店舗を統括する「経営者」としての役割へとシフトする必要があります。
  • 管理範囲の拡大: 従業員の数、売上・経費の規模、在庫、顧客管理など、あらゆる管理範囲が拡大します。これまでのアナログな管理方法では対応しきれなくなり、効率的なシステムや体制の構築が必須となります。
  • 属人化からの脱却の重要性: オーナー様がいなくても、各店舗が同じ品質、同じサービスを提供できるよう、業務の標準化やマニュアル化が不可欠です。これにより、スタッフ全員が高いレベルで業務を遂行できる環境を整備します。

2店舗目の壁は、この「属人化からの脱却」と「仕組み化された組織運営への転換」をいかにスムーズに行うか、という問いかけなのです。

【実践ガイド】2店舗目以降で失敗しないための7つの重要ポイント

ここからは、多店舗展開を成功に導くために不可欠な7つの重要ポイントを、具体的な実践方法と併せてご紹介いたします。

ポイント1:強固な「財務基盤」の構築と利益管理の徹底

売上が増えても利益が残らない、あるいは資金繰りに窮する。これは多店舗展開で陥りやすい最も危険な落とし穴の一つです。1店舗目の成功体験から「次も大丈夫」と楽観視せず、より厳格な財務管理と利益確保の視点を持つことが重要です。

実践方法:

  • 詳細な事業計画の策定:
    • 新店舗の出店費用、運転資金、初期投資、人件費、家賃、仕入れコストなどを詳細に算出し、資金計画を立てる。
    • 損益分岐点を正確に把握し、現実的な売上目標と利益目標を設定する。
  • キャッシュフローの徹底管理:
    • 日々の現金の出入りを把握し、資金ショートを起こさないための計画的な資金運用を行う。
    • 予期せぬ出費に備え、余裕を持った運転資金を確保する。
  • 変動費・固定費の厳密な分析と削減:
    • 食材原価、人件費、家賃、水道光熱費など、各費目を詳細に分析し、無駄がないか徹底的に見直す。
    • 特に人件費は売上に比例しない部分も大きいため、シフト管理や採用計画を最適化し、生産性向上を図る。
  • コスト構造の最適化:
    • 仕入れ先の一本化や大量発注によるコストダウン交渉を行う。
    • 食材のロスを削減するための在庫管理システムを導入する。
  • 多店舗展開に特化した会計システムの導入:
    • 各店舗の売上、経費、利益をリアルタイムで把握できる会計システムやPOSシステムを導入し、経営状況を可視化する。
    • 店舗ごとの収益性を比較分析し、改善点を見出す。

ポイント2:オーナー依存からの脱却!「人材育成」と「組織化」

多店舗展開の成功は、優秀な「人財」の確保と育成にかかっていると言っても過言ではありません。オーナー様が現場を離れても、各店舗が自走できる組織体制を築くことが不可欠です。

実践方法:

  • 店長・リーダー候補の早期育成:
    • 1店舗目の優秀なスタッフを次期店長候補として育成プランを立てる。
    • 売上管理、原価管理、シフト管理、スタッフマネジメントなど、店舗運営に必要なスキルをOJTと座学で体系的に教え込む。
    • 育成には時間を要するため、多店舗展開を視野に入れた早い段階から着手する。
  • 明確な評価制度とキャリアパスの構築:
    • スタッフが成長を実感し、モチベーションを維持できるような公平な評価制度を導入する。
    • 店長、エリアマネージャーなど、将来のキャリアパスを明示し、成長意欲を刺激する。
    • 単なる昇給だけでなく、役職や権限の付与もモチベーション向上に繋がる。
  • 権限委譲と責任感の醸成:
    • 店長には売上目標達成に向けた裁量権を与え、その責任を伴うことを明確にする。
    • 各店舗のリーダーが自律的に考え、行動できる環境を整える。
    • オーナー様は「管理」ではなく「支援」と「育成」に徹する姿勢が重要。
  • 採用戦略の再構築:
    • 多店舗展開を見据え、将来的な人手不足を予測し、計画的な採用活動を行う。
    • 単なる人手ではなく、理念に共感し、長く働いてくれる人材の採用に注力する。
    • 採用基準を明確化し、スクリーニングのプロセスを確立する。
  • 社内コミュニケーションの活性化:
    • 店舗間の情報共有やナレッジの共有を促進する仕組みを作る(定期的な店長会議、情報共有ツールなど)。
    • 理念やビジョンを共有し、組織としての一体感を醸成する。

ポイント3:「標準化」と「マニュアル化」による品質・サービスの一貫性

オーナー様が常に現場にいなくても、全ての店舗で高品質な料理とサービスを提供できるよう、業務の標準化とマニュアル化は避けて通れません。これにより、顧客体験の均一化を図り、ブランド価値を維持・向上させます。

実践方法:

  • レシピの完全マニュアル化:
    • 料理のレシピ、使用する食材、盛り付けまでを詳細に言語化し、誰が作っても同じ味、同じ品質になるようにマニュアル化する。
    • グラム単位での計量、調理工程のタイムスケジュールなども明記する。
  • 接客・サービスの標準化:
    • お客様への声がけのタイミング、言葉遣い、料理提供の仕方、会計時の対応など、接客の全工程をマニュアル化する。
    • お客様を「おもてなし」するための基本的な心構えや行動指針も共有する。
  • オペレーション(SOP: Standard Operating Procedure)の作成:
    • 開店準備、閉店作業、清掃、食材管理、衛生管理、トラブル対応など、日々の店舗運営に関わる全ての業務を手順書として詳細に作成する。
    • チェックリスト形式を取り入れ、誰もが抜け漏れなく業務を遂行できるよう工夫する。
  • マニュアルの定期的な見直しと改善:
    • 作成したマニュアルは一度作ったら終わりではありません。現場からのフィードバックを収集し、定期的に見直し、改善していくPDCAサイクルを回す。
    • 新しいメニューやサービスが導入された際には、速やかにマニュアルを更新する。
  • マニュアルを用いた研修の実施:
    • 新入社員や異動者には必ずマニュアルを用いた研修を実施し、実践と併せて習得させる。
    • 定期的にテストやOJTを行い、マニュアルの遵守状況と理解度を確認する。

ポイント4:ブランド価値を守る「コンセプトマネジメント」

多店舗展開を進める中で、各店舗のコンセプトがブレてしまうと、ブランド全体の価値が希薄化し、顧客が離れる原因となります。統一されたブランドイメージとコンセプトを維持・強化することが重要です。

実践方法:

  • ブランドアイデンティティの明確化:
    • 自店の「らしさ」とは何か、お客様にどのような体験を提供したいのか、改めてブランドの核となるコンセプトを言語化する。
    • ミッション、ビジョン、バリューを明確にし、全スタッフと共有する。
  • 店舗デザインと内装の一貫性:
    • 各店舗で全く同じである必要はありませんが、ブランドイメージを損なわないよう、デザインや雰囲気にある程度の統一感を持たせる。
    • ロゴ、カラーリング、使用する食器やカトラリーなども考慮に入れる。
  • メニュー構成と価格戦略の統一:
    • 基本となるメニューは全店で共通とし、特定の店舗でのみ提供する限定メニューなども、ブランドのコンセプトと乖離しないように調整する。
    • 価格設定も、地域性や競合を考慮しつつ、ブランドとしての適正価格を維持する。
  • ターゲット顧客層の再確認:
    • 各店舗が出店する地域の特性も踏まえつつ、どの顧客層にアプローチするかを明確にする。
    • ブランドコンセプトとターゲット層がずれないよう、常に意識する。
  • コンセプトと乖離する店舗の発生防止:
    • 新店舗の出店に際しては、その立地や商圏がブランドコンセプトに合致するかを慎重に検討する。
    • 店長の裁量が大きくなりすぎた結果、コンセプトがブレないよう、定期的なチェックを行う。

ポイント5:効果的な「マーケティング戦略」と「集客」

1店舗目の成功は、オーナー様の口コミや地域密着型のアプローチが大きかったかもしれません。しかし、多店舗展開では、より戦略的なマーケティングと効率的な集客手法が求められます。

実践方法:

  • デジタルマーケティングの強化:
    • Instagram、X(旧Twitter)、FacebookなどのSNSを活用し、各店舗の魅力や最新情報を発信し続ける。
    • SEO対策を施した公式ウェブサイトやブログを開設し、検索エンジンからの集客を図る。
    • Googleマイビジネスを各店舗で最適化し、地域検索からの流入を増やす。
  • オンライン予約システムの導入:
    • お客様が24時間いつでも簡単に予約できるシステムを導入し、予約機会の損失を防ぐ。
    • 予約状況のリアルタイム管理により、店舗運営の効率化を図る。
  • CRM(顧客関係管理)の導入と活用:
    • 顧客情報を一元管理し、来店履歴や好みなどを把握することで、パーソナライズされたサービス提供や効果的な再来店施策(DM、メールマガジンなど)を展開する。
    • ポイントシステムやクーポン発行など、顧客ロイヤリティを高める施策を検討する。
  • 地域密着型マーケティングの展開:
    • 地域のイベントへの参加、近隣住民向けのキャンペーン、地元商店会との連携など、地域に根ざした活動を継続する。
    • 特定の店舗だけでなく、ブランド全体として地域コミュニティへの貢献を目指す。
  • データに基づいたマーケティング効果の測定:
    • 各施策の費用対効果を常に検証し、効果の高い施策にリソースを集中させる。
    • POSデータやウェブ解析ツールを活用し、顧客の動向や消費傾向を分析する。

ポイント6:効率的な「情報共有」と「IT活用」

多店舗展開において、情報がスムーズに共有されないことは、経営判断の遅れや業務の非効率化を招きます。ITツールを積極的に活用し、情報の透明性と効率性を高めることが重要です。

実践方法:

  • 統合型POSシステムの導入:
    • 各店舗の売上データ、在庫データ、顧客データなどを一元管理できるPOSシステムを導入する。
    • リアルタイムでの売上分析、ABC分析、時間帯別分析などを可能にし、経営判断の精度を高める。
  • 勤怠管理・シフト管理システムの導入:
    • 従業員の勤怠を正確に管理し、給与計算の効率化を図る。
    • AIを活用したシフト自動作成機能などを利用し、人件費の最適化と管理工数の削減を実現する。
  • オンラインコミュニケーションツールの活用:
    • Chatwork、Slack、LINE WORKSなどのビジネスチャットツールを導入し、店舗間、部署間、オーナーと店舗間の迅速な情報共有を可能にする。
    • 会議や研修にWeb会議システム(Zoom, Google Meetなど)を活用し、移動時間やコストを削減する。
  • クラウドベースのドキュメント管理:
    • マニュアル、規定集、研修資料、会議議事録などをクラウド上に保存し、いつでもどこからでもアクセスできるようにする。
    • Google DriveやDropbox Businessなどを活用し、情報の共有と共同編集を容易にする。
  • セキュリティ対策の徹底:
    • 顧客情報や財務情報など、機密性の高いデータを扱うため、情報漏洩やサイバー攻撃への対策を講じる。
    • 従業員への情報セキュリティ教育も定期的に実施する。

ポイント7:オーナー自身の「役割の変化」と自己成長

多店舗展開に成功したオーナー様の多くは、自身の役割が大きく変化したことを認識し、それに合わせて自らも成長し続けています。現場のプレイングマネージャーから、組織全体のリーダーへと意識をシフトすることが求められます。

実践方法:

  • 現場から経営への意識転換:
    • 現場での作業に時間を割くのをやめ、より戦略的な思考や意思決定に時間を費やす。
    • 各店舗の店長に権限を委譲し、現場のことは任せる勇気を持つ。
  • 経営数値の把握と分析能力の向上:
    • 財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を正確に読み解き、経営状況を客観的に判断する能力を養う。
    • 経営指標(売上高総利益率、人件費率、労働分配率など)を常に意識し、改善策を立案する。
  • リーダーシップとビジョン共有能力の強化:
    • 自身のビジョンや理念を明確に言語化し、全従業員に浸透させる。
    • 組織全体のモチベーションを高め、目標達成に向けて導くリーダーシップを発揮する。
  • 時間管理とセルフマネジメント:
    • 多忙な日々の中で、自身が本当にやるべき業務(緊急ではないが重要な業務)に集中するための時間管理術を習得する。
    • 心身の健康を保つため、適切な休息やリフレッシュの時間を確保する。
  • 外部専門家との連携:
    • 税理士、弁護士、社会保険労務士、そして経営コンサルタントなど、各分野の専門家と連携し、経営判断の精度を高める。
    • 自分一人で抱え込まず、プロの知見を積極的に活用する。

多店舗展開を成功させるための「チェックリスト」

これまで解説してきた重要ポイントを、皆様ご自身の事業に照らし合わせてみてください。

  •  新店舗の具体的な事業計画(資金計画、損益分岐点)は明確ですか?
  •  キャッシュフローは常に管理され、余裕資金は確保されていますか?
  •  各費目(原価、人件費、家賃など)は詳細に分析され、最適化されていますか?
  •  次期店長・リーダー候補は明確で、育成プランが進行していますか?
  •  公平な評価制度とキャリアパスは整備されていますか?
  •  業務の標準化・マニュアル化は完了し、誰でも同じ品質を提供できますか?
  •  接客・サービスの標準化とSOP(業務手順書)は作成されていますか?
  •  ブランドコンセプトは明確で、各店舗で一貫性を保っていますか?
  •  デジタルマーケティング(SNS、ウェブサイト、MEO)は活用されていますか?
  •  オンライン予約システムやCRMは導入されていますか?
  •  統合型POSシステムや勤怠・シフト管理システムを導入し、効率化を図っていますか?
  •  社内の情報共有はスムーズに行われていますか?
  •  オーナー自身の役割は「現場」から「経営」へとシフトできていますか?
  •  経営数値の把握と分析能力を日々高めていますか?
  •  必要に応じて外部専門家との連携を図っていますか?

これらの項目に自信を持って「はい」と答えられるほど、貴社の多店舗展開は成功への道を歩むことができるでしょう。

まとめ:あなたの描く未来へ、着実に歩みを進めるために

多店舗展開は、決して容易な道ではありません。しかし、綿密な計画と準備、そして何よりも「人」への投資を惜しまなければ、貴社のビジネスはさらなる高みへと飛躍します。1店舗目で培った現場での経験と情熱を土台に、これからは「仕組み」と「組織」で成功を生み出すフェーズへと移行するのです。

本稿でご紹介した7つの重要ポイントは、そのための具体的な羅針盤となるはずです。売上はあるものの利益が残らない、スタッフの育成が進まないといったお悩みは、まさに「仕組み化」と「組織化」の課題を抱えている証拠です。これらを一つずつクリアすることで、オーナー様は現場の重圧から解放され、より本質的な経営課題に集中できるようになります。

多店舗展開は、貴社が社会に提供できる価値を最大化し、より多くの人々に喜びを届けるチャンスです。現場で培った「お客様への想い」を形にし、組織として再現していくことで、持続的な成長を実現できるでしょう。

詳細はお問い合わせください

もし、本稿をお読みいただき、具体的な課題解決に向けてさらに深く掘り下げたいとお考えでしたら、ぜひ一度ご相談ください。貴社の現状をヒアリングし、オーダーメイドの多店舗展開戦略や組織構築、財務改善に関する具体的なアドバイスをご提供いたします。あなたの描く夢の実現を、共に歩んでいけることを楽しみにしております。

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