メニューブックの心理学「メニューエンジニアリング」入門

はじめに

若手オーナーの皆様、日々の店舗運営、本当にお疲れ様でございます。1〜3店舗の経営となると、料理やサービスへのこだわりはもちろんのこと、売上管理、集客、スタッフ育成など、多岐にわたる業務に奮闘されていることと存じます。特に、料理人出身や現場上がりのオーナー様の中には、「売上は伸びているのに、なぜか利益が手元に残らない」「経営は独学で、正直手探りの状態だ」といったお悩みを抱えていらっしゃる方も少なくないのではないでしょうか。

お客様に最高の料理と空間を提供したいという強い想いを持つ一方で、経営数字とのギャップに葛藤を感じるお気持ち、私もよく理解できます。しかし、ご安心ください。その素晴らしい「こだわり」を、より強固な経営基盤へと繋げるための具体的な方法がここにあります。

それが、メニューブックの心理学「メニューエンジニアリング」です。

メニューブックは単なる料理の一覧表ではありません。それは、貴店にとって最も効果的な「営業マン」であり、お客様との最初の対話の場でもあります。このメニューブックの力を最大限に引き出し、売上をただ増やすだけでなく、確実に利益へと結びつけるための戦略的アプローチがメニューエンジニアリングなのです。

この記事では、メニューエンジニアリングの基本から、貴店で実践するための具体的なステップまでを、分かりやすく解説してまいります。実践的な知識を身につけ、貴店のメニューブックを「最強の営業マン」へと進化させる一歩を、共に踏み出しましょう。

メニューエンジニアリングとは? その本質と目的

それではまず、メニューエンジニアリングが一体どのようなアプローチなのか、その本質と目的についてご説明いたします。

メニューエンジニアリングとは、一言で申しますと「メニューアイテムの販売データと原価データを詳細に分析し、収益性を最大化するための戦略的アプローチ」です。これは単に「売れる商品を増やす」という話に留まりません。お客様に喜ばれ、かつお店の利益に大きく貢献するメニューを特定し、それを効果的に「見せる」「推奨する」ことで、全体の収益構造を最適化することを目的とします。

このアプローチの最大の目的は、以下の3点に集約されます。

  1. 利益率の高い商品の最適化: 単純な売上額だけでなく、各メニューアイテムがどれだけの利益を生み出しているかを明確にし、利益貢献度の高い商品を戦略的に販売促進することで、お店全体の利益率を向上させます。
  2. お客様の満足度向上とブランドイメージ維持: 利益を追求する一方で、お客様が本当に求めている商品や、貴店のこだわりが詰まった商品の価値を正しく伝え、満足度を高めることも重要です。メニューエンジニアリングは、この両者のバランスを取ることを可能にします。
  3. 経営の「見える化」と意思決定の効率化: 経験や勘に頼りがちだったメニュー構成の決定を、データに基づいた客観的な分析へとシフトさせます。これにより、どのメニューに注力すべきか、どのメニューを改善すべきかが明確になり、より迅速かつ的確な経営判断を下せるようになります。

貴店が提供する料理や空間への「想い」は、メニューエンジニアリングによって、確かな「利益」として形になるのです。

なぜ今、貴店にメニューエンジニアリングが必要なのか?

「こだわりが強いからこそ、値段を上げにくい」「原価計算はしているが、それで合っているのか不安」といったお悩みを持つ若手オーナーの皆様にとって、メニューエンジニアリングは特に価値あるアプローチとなります。なぜ今、貴店にこの戦略的視点が必要なのか、その理由を深く掘り下げていきましょう。

1. 「料理人・現場出身」オーナーの課題解決

多くの料理人出身や現場上がりのオーナー様は、素晴らしい料理の技術とお客様をもてなす情熱をお持ちです。しかし、経営という視点においては、売上原価の計算はするものの、メニュー全体の収益性やお客様の購買心理を深く分析する機会が少ない傾向にあります。結果として、「売上はあっても利益が残らない」という状況に陥りがちです。メニューエンジニアリングは、この漠然とした悩みを、具体的なデータに基づいた解決策へと導きます。

2. 漠然とした売上ではなく、「利益」に焦点を当てる重要性

「今月の売上は過去最高!」と喜んでいても、蓋を開けてみれば材料費や人件費の高騰で利益が圧迫されている、という経験はありませんでしょうか。メニューエンジニアリングは、売上の「質」に注目します。つまり、どのメニューが真に利益を生み出しているのかを明確にし、その情報を元に戦略を立てることで、効率的に利益を最大化することを目指します。

3. SNS集客や新規顧客獲得の前に、既存顧客からの収益最大化

SNSでの情報発信や各種媒体での集客は、新規顧客獲得のために非常に重要です。しかし、既存のお客様がすでに注文しているメニューから、さらに効果的に利益を生み出す仕組みを構築することも、経営の安定には不可欠です。メニューエンジニアリングは、まさにその既存顧客からの収益性を高めるための、最も直接的かつ強力な手段の一つと言えます。

4. フードロス削減、人件費効率化にも繋がる側面

メニューエンジニアリングによって、売れない商品や提供に手間がかかる商品が明確になります。これにより、過剰な仕入れによるフードロスを削減したり、調理工程を見直して人件費の効率化を図ったりすることも可能です。結果として、店舗運営全体のコスト構造を改善し、持続可能な経営へと繋がります。

貴店の「こだわり」と「利益追求」を両立させ、確固たる経営基盤を築くために、メニューエンジニアリングは今、最も注目すべき戦略の一つなのです。

メニューエンジニアリングの基本原則:4つのカテゴリー分析

メニューエンジニアリングの中心となるのは、各メニューアイテムを「貢献度」と「人気度」の2つの軸で分析し、4つのカテゴリーに分類することです。この分類により、それぞれのメニューに対して取るべき戦略が明確になります。

ステップ1:データ収集と準備

分析を始める前に、まずは以下のデータを準備しましょう。最低3ヶ月〜半年の期間のデータがあると、より正確な傾向を把握できます。POSシステムを導入していれば、データ抽出は比較的容易です。

  • 各メニューアイテムの販売数: ある一定期間に、それぞれのメニューが何食売れたか。
  • 各メニューアイテムの原価: 一食あたりの正確な原価(食材費だけでなく、調味料なども含めた直接原価)。
  • 各メニューアイテムの売上価格: お客様に提供している販売価格。

ステップ2:貢献度と人気度の算出

収集したデータをもとに、各メニューアイテムの「貢献度」と「人気度」を算出します。

  • 貢献度(Profitability):
    • 算出方法: 売上価格 - 原価
    • これは、メニューアイテム単体がどれだけ利益を稼いでいるかを示す指標です。お店全体の平均貢献度を算出し、それと比較することで、各メニューの貢献度が高いか低いかを判断します。
  • 人気度(Popularity):
    • 算出方法: 当該メニューの販売数 ÷ 全メニューの総販売数
    • これは、全メニューアイテムの中で、そのメニューがどれくらいの割合で売れているかを示す指標です。全メニューの平均販売比率を算出し、それと比較することで、各メニューの人気度が高いか低いかを判断します。

ステップ3:4つのカテゴリー分類

貢献度と人気度の基準(平均値)を元に、各メニューアイテムを以下の4つのカテゴリーに分類します。

  1. スター (Stars): 高貢献度 × 高人気度
    • 特徴: 貴店の「顔」となる商品であり、お客様からも人気が高く、なおかつ高い利益貢献度を誇る理想的なメニューです。貴店のブランドイメージを象徴する商品であることも多いでしょう。
    • 戦略例:
      • 維持・強化: 品質や提供スピードの維持、安定した材料確保を最優先します。
      • プロモーション: メニューブックの最も目立つ位置に配置し、写真も最も魅力的なものを使用します。
      • スタッフ推奨: スタッフが自信を持って推奨できるような情報共有を徹底します。
      • 品質管理: 常に最高の状態で提供できるよう、厳格な品質管理を徹底します。
  2. プラウホース (Plow Horses): 低貢献度 × 高人気度
    • 特徴: 「人気の稼ぎ頭」ですが、利益率が低いメニューです。お客様に愛されているため、安易にメニューから外すことはできませんが、このままでは利益を圧迫する要因となり得ます。名前の由来は「馬車馬」で、人気があるが報われないイメージです。
    • 戦略例:
      • 価格見直し: 競合店やお客様の許容範囲を考慮し、慎重な値上げを検討します。
      • 原価率改善: 仕入れ先の見直し、食材のカット方法や調理法の工夫、ポーションサイズの調整などで原価を抑えます。
      • サイドメニュー誘導: 高貢献度のサイドメニューやドリンクとセットで注文してもらう工夫をします。
      • 付加価値の演出: 盛り付けや提供方法を工夫し、価格以上の価値を感じてもらうようにします。
  3. パズル (Puzzles): 高貢献度 × 低人気度
    • 特徴: 利益貢献度は高いものの、あまりお客様に注文されない「謎」のメニューです。素晴らしい潜在能力を秘めているにも関わらず、その魅力がお客様に伝わっていない可能性があります。
    • 戦略例:
      • プロモーション強化: メニューブック内で目を引く配置に変更し、魅力的な説明文や写真を添えます。
      • ネーミング変更: お客様に響く、美味しそうで分かりやすい名前に変更します。
      • スタッフ推薦: スタッフが積極的に「今日のおすすめ」として紹介するよう促します。試食機会を設けるのも良いでしょう。
      • 限定メニュー化: 「今月のおすすめ」や「数量限定」として特別感を演出し、お客様の関心を引きます。
  4. ドッグ (Dogs): 低貢献度 × 低人気度
    • 特徴: 人気もなく、利益貢献度も低い、残念ながら貴店にとって最も改善が必要なメニューです。このまま残しておいても、原価や仕込みの手間がかかるだけで、店舗の足を引っ張る存在になりかねません。
    • 戦略例:
      • 原則として削除: 理由が明確でない限り、メニューから削除することを検討します。
      • 大幅なリニューアル: 材料、レシピ、価格を全て見直し、全く新しい商品として生まれ変わらせることを検討します。
      • 再テスト: 削除する前に、一時的にプロモーションを強化し、反応を見ることも有効です。ただし、効果がなければ迷わず削除しましょう。
      • 客寄せ利用の検討: もし原価が非常に安く、仕込みの手間もかからない場合、他メニューの注文に繋げるための客寄せとして残すことも、ごく稀に検討されます。しかし、基本的には見直しが必要です。

この4つのカテゴリー分析は、貴店のメニュー全体を見渡し、客観的な視点から戦略を立てるための強力なフレームワークとなります。

実践ガイド:貴店のメニューを最適化するステップ

ここからは、実際に貴店のメニューをメニューエンジニアリングによって最適化していく具体的なステップを解説します。現場上がりのオーナー様にも理解しやすいよう、実践的な内容に焦点を当ててまいります。

ステップ1:現状分析と目標設定

まずは貴店の現状を正確に把握し、具体的な目標を設定することから始めます。

  • メニューのリストアップとデータ収集:
    • 貴店の全メニューをリストアップし、過去3〜6ヶ月間のPOSデータから、各メニューの「販売数」「原価(材料費)」「売上価格」を正確に抽出してください。手書き伝票の場合は、地道に集計するしかありませんが、この手間を惜しまないことが重要です。
    • 原価計算が曖昧な場合は、この機会に各メニューのレシピと仕入れ価格を照らし合わせ、正確な原価を算出しましょう。
  • 目標設定:
    • メニューエンジニアリングを通じて、具体的に何を達成したいかを明確にします。例えば、「全体の原価率を2%改善する」「スター商品の売上を15%アップさせる」「パズル商品から2品をスター商品に引き上げる」など、具体的で測定可能な目標を設定します。

ステップ2:カテゴリー分類と個別戦略立案

前述の「4つのカテゴリー分析」に従い、貴店のメニューをスター、プラウホース、パズル、ドッグに分類し、それぞれに対して具体的なアクションプランを立てます。

  • スター商品への戦略
    • 視覚的に目立たせる配置: メニューブックの最上部、中央部など、お客様の視線が最初にいく「ゴールデントライアングル」と呼ばれる位置に配置します。
    • 品質と安定供給の維持: 常に最高の品質を保ち、品切れを起こさないよう、材料の仕入れと在庫管理を徹底します。
    • スタッフからの積極的な推奨: スタッフ全員が商品の魅力を理解し、お客様に自信を持って推奨できるよう、試食会や勉強会を実施します。
    • セットメニューへの組み込み: スター商品を核としたお得なセットメニューを開発し、客単価向上を図ります。
  • プラウホース商品への戦略
    • 値上げの検討: 競合店の価格帯や顧客の購買心理を慎重に分析し、小幅な値上げを検討します。まずは10円〜50円程度の値上げで反応を見るのも一つの手です。
    • 原価の見直し:
      • 仕入れ先の変更: 同等品質でより安価な材料を提供してくれる仕入れ先を探します。
      • レシピの調整: 品質を損なわない範囲で、使用する材料の分量や種類を見直します。
      • ポーションサイズの検討: 提供量を微調整することで、原価率を改善できないか検討します。
    • 抱き合わせ販売やアップセル戦略: 「この料理には、このドリンクが合いますよ」「あと〇〇円で、もう一品いかがですか」といった声かけや、セットメニューへの誘導を行います。
    • 提供方法や盛り付けで付加価値を演出: 価格以上の満足感を得られるよう、見た目の美しさや提供の際の演出を工夫します。
  • パズル商品への戦略
    • メニューブック内での目立つ配置変更: スター商品と同様に、注目されやすい位置に移動させます。
    • 魅力的な説明文、写真の追加: 食材のこだわり、調理法、開発秘話など、お客様の食欲を刺激し、ストーリーを感じさせる説明文を作成します。プロのカメラマンによる魅力的な写真の掲載も非常に効果的です。
    • 限定キャンペーンやおすすめ品としての訴求: 「今週のおすすめ」「シェフ渾身の一皿」として、期間限定で集中的にプロモーションします。
    • 試食提供やスタッフによる積極的な説明: 期間限定で試食を提供したり、スタッフがお客様に直接魅力を語りかけたりする機会を増やします。
    • ネーミングの変更: 抽象的で分かりにくい名前であれば、内容が想像しやすく、かつ食欲をそそる名前に変更します。
  • ドッグ商品への戦略
    • 原則としてメニューから削除: メニューの品数が多いことは、お客様の選択を迷わせる原因にもなります。思い切って削除することで、他の人気商品の注文機会を増やすことができます。
    • 大幅なリニューアルで再テスト: 原材料、レシピ、価格、提供方法を全て見直し、全く新しい商品として再投入し、市場の反応を再確認します。
    • 原価が安く手間がかからない場合: 他のメニューへの誘客目的で残すことも、ごく稀に検討されますが、基本的には見直しが推奨されます。

ステップ3:メニューデザインとレイアウトの心理学

戦略を立てたら、それをメニューブックのデザインとレイアウトに落とし込むことが非常に重要です。お客様の心理を巧みに利用し、自然と利益貢献度の高い商品に誘導する工夫を凝らしましょう。

  • 目の動きと「ゴールデントライアングル」:
    • お客様の視線は、メニューブックを開いた際、一般的に右上のページから中央、そして左上のページへと三角形を描くように動くと言われています(ゴールデントライアングル)。最も売りたいスター商品やパズル商品をこの範囲に配置すると効果的です。
  • 価格表示の工夫:
    • 「1,280円」のように、「円」マークや「,(カンマ)」を省略する(例:1280)ことで、数字の羅列として認識させ、価格への心理的抵抗を軽減します。
    • 「9」で終わる端数価格(例:980円)は、お得感を演出する効果があります。
    • 価格のフォントサイズを小さくしたり、商品説明文と同じ行に配置したりすることで、価格が目立ちすぎないように工夫します。
  • 説明文の魅力化:
    • 単なる食材名だけでなく、生産者のこだわり、新鮮さ、調理法(例:「じっくり煮込んだ特製ソース」)、味わい(例:「とろけるような食感」)など、五感を刺激し、ストーリーを感じさせる表現を取り入れます。
  • 写真の活用:
    • 特にパズル商品やスター商品は、プロのカメラマンによる、美味しさが伝わる魅力的な写真を使用しましょう。写真は視覚的に訴えかけ、お客様の食欲を強く刺激します。
  • 限定感の演出:
    • 「本日のおすすめ」「数量限定」「季節限定」といった言葉で特別感を演出し、お客様の「今注文しなければ」という心理を刺激します。

ステップ4:実行と効果測定、そして継続的な見直し

メニューの変更は一度行ったら終わりではありません。市場や顧客のニーズは常に変化するため、継続的な見直しが不可欠です。

  • 変更実施後のデータ収集:
    • メニュー変更後、最低1ヶ月〜3ヶ月は新しいメニュー構成での販売データを収集し、効果を測定します。
  • 効果検証と改善点の洗い出し:
    • 設定した目標に対して、どのような効果があったか、具体的に数字で検証します。期待通りの結果が得られなかった場合は、何が原因だったのかを分析し、次の改善策を検討します。
  • 市場やトレンドの変化に合わせた定期的な見直し:
    • 最低でも半年に一度は、メニューエンジニアリングの分析を定期的に実施し、市場のトレンド、競合店の動向、お客様の嗜好の変化に合わせてメニューを見直す習慣をつけましょう。

これらのステップを愚直に実行することで、貴店のメニューブックは、単なる商品リストから、利益を生み出す「最強の営業マン」へと確実に進化していくことでしょう。

メニューエンジニアリング導入の成功事例(仮想事例)

ここで、メニューエンジニアリングを導入し、実際に成果を上げた小規模イタリアンレストラン「リストランテ・ラ・ルーナ」の事例をご紹介いたします。

「リストランテ・ラ・ルーナ」は、席数20席ほどの地域密着型レストランで、オーナーシェフの腕が光る本格イタリアンを提供していました。しかし、SNSでの評判は上々で、予約も安定して入るものの、月末の資金繰りは常に厳しく、「なぜこんなに忙しいのに利益が少ないのか」という悩みを抱えていました。

そこでオーナーシェフは、メニューエンジニアリングの導入を決意しました。

  1. データ収集・分析: 過去3ヶ月間のPOSデータを元に、全メニューの販売数と原価率を詳細に分析しました。
  2. カテゴリー分類:
    • スター商品: 「ラ・ルーナ特製ラザニア」(人気度・貢献度ともに高)
    • プラウホース商品: 「フレッシュトマトとバジルのパスタ」(人気は高いが、使用するトマトの原価高騰で貢献度が低くなっていた)
    • パズル商品: 「季節野菜のバーニャカウダ」(原価が安く貢献度は高いが、注文数が伸び悩んでいた)
    • ドッグ商品: 「魚介のアヒージョ」(原価が高く、注文も少ない)
  3. 戦略実施:
    • ラザニア(スター): メニューブックのトップページに大きな写真とこだわりを伝える説明文を掲載。スタッフも積極的に推奨。
    • パスタ(プラウホース):
      • 原価率を見直し、提供量を微調整しつつ、価格を50円値上げ。
      • 「前菜の盛り合わせ」や「グラスワイン」とのお得なセットメニューを開発。
    • バーニャカウダ(パズル):
      • 「採れたて〇〇農園の季節野菜バーニャカウダ」とネーミングを変更し、産地へのこだわりを強調。
      • メニューブックでは、ラザニアの次に目立つ位置に配置し、鮮やかな写真を追加。
      • スタッフが「おすすめのワインに合う一品」として声かけを強化。
    • アヒージョ(ドッグ): メニューから削除し、代わりに「本日のおすすめタパス」として、仕入れ状況に応じて原価率の良い一品を提供する形式に変更。
  4. 結果:
    • 導入から3ヶ月後、全体の原価率は約2.5%改善。
    • 特に、バーニャカウダ(旧パズル)の売上が前年同期比で約40%増加し、スター商品の一角を担うまでに成長。
    • 結果として、月平均の利益が約15万円増加し、資金繰りの安定に大きく貢献しました。

この事例は、単なる値上げや品数削減ではなく、データに基づいた戦略的なアプローチが、いかに店舗経営に大きな変化をもたらすかを示しています。料理や空間へのこだわりはそのままに、利益体質へと転換できた好例と言えるでしょう。

よくある誤解と注意点

メニューエンジニアリングは強力なツールですが、その導入にあたっては、いくつかの誤解を解き、注意すべき点を理解しておくことが重要です。

1. 単なる「値上げ」や「品数削減」ではない

メニューエンジニアリングは、利益改善のために値上げや品数削減を検討することもありますが、それが唯一の、あるいは最優先の目的ではありません。データに基づいて「どのメニューにどのような手を打つべきか」を客観的に判断し、最適なバランスを見つけることが本質です。単に値上げするだけではお客様の離反を招き、品数を減らすだけでは選択肢の魅力を損ねかねません。

2. お客様の満足度を最優先にするバランス感覚

利益追求は重要ですが、それによってお客様の満足度が低下しては本末転倒です。例えば、人気度の高いプラウホース商品(低貢献度×高人気度)は、お店の客寄せパンダ的な役割を果たしていることもあります。安易な値上げや品質の低下は、お客様の不満に直結します。お客様の「美味しい」という笑顔と「また来たい」という気持ちを損なわない範囲で、いかに利益を最大化するかというバランス感覚が求められます。

3. 料理人のこだわりと経営的視点の融合

現場上がりのオーナー様にとって、自分が心を込めて作った料理をドッグ(低貢献度×低人気度)と判断するのは辛いかもしれません。しかし、感情論だけでメニューを残し続けることは、店舗全体の利益を圧迫し、結果としてお店の存続を危うくする可能性もあります。メニューエンジニアリングは、貴店のこだわりを否定するものではなく、そのこだわりをより多くの人に届け、かつ持続可能な形で提供していくための「経営的視点」をデータによって補完するものです。

4. 一度行ったら終わりではなく、継続的な取り組みであること

市場のトレンド、食材の仕入れ価格、競合店の動向、お客様の嗜好は常に変化します。そのため、メニューエンジニアリングも一度分析して終わりではなく、定期的に(最低でも半年に一度、可能であれば四半期に一度)見直しを行う必要があります。PDCAサイクルを回し続けることで、常に最適化されたメニュー構成を維持し、変化に対応できる柔軟な経営体制を築くことができます。

これらの注意点を踏まえ、客観的なデータとお客様への想いを両立させながら、慎重かつ戦略的にメニューエンジニアリングに取り組んでまいりましょう。

まとめ:貴店のメニューブックを「最強の営業マン」に

本日は、メニューブックの心理学「メニューエンジニアリング」について、その基本から実践的なステップ、そして導入時の注意点まで、詳しく解説してまいりました。

若手オーナーの皆様が抱える「売上はあるが利益が出ない」「経営が手探り」といったお悩みは、決して珍しいことではありません。しかし、メニューエンジニアリングは、その漠然とした不安を解消し、貴店の経営を「経験と勘」に頼る状態から「データに基づいた明確な戦略」へと進化させるための、非常に強力なツールとなり得ます。

貴店がこれまで培ってきた料理へのこだわりや空間演出への情熱は、お客様に最高の体験を提供する上で何よりも大切にすべきものです。メニューエンジニアリングは、その揺るぎない「想い」を土台としながら、各メニューの利益貢献度と人気度を科学的に分析し、お客様の満足度を高めつつ、店舗の収益性を最大化するための道筋を示します。

最初はデータの収集や分析に手間を感じるかもしれません。しかし、この一歩を踏み出すことで、貴店のメニューブックは単なる料理の一覧表から、お客様の注文を巧みに誘導し、着実に利益を積み重ねる「最強の営業マン」へと変貌を遂げるでしょう。

手探りの経営から脱却し、データに基づいた持続可能な経営へとシフトする、絶好の機会です。貴店の未来のために、ぜひこのメニューエンジニアリングの考え方を日々の経営に取り入れてみてください。確実に成果に繋がり、貴店の事業をさらに発展させる力となることをお約束いたします。

詳細はお問い合わせください。

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