目次
はじめに
飲食店の経営者の皆様、日々の業務、誠にお疲れ様でございます。若手オーナー様の中には、料理や空間への深いこだわりを持ち、お客様に最高の体験を提供したいという強い情熱をお持ちの方も多いことと存じます。しかしながら、その情熱とは裏腹に、集客や売上の伸び悩み、利益率の改善、SNS運用の方向性、さらにはスタッフの育成といった経営面での課題に直面し、「このままで良いのだろうか」と、お一人で悩まれる場面も少なくないのではないでしょうか。
特に料理人や現場出身のオーナー様の場合、経営に関する知識は独学で手探りの状態であることも珍しくありません。売上は立つものの利益が出にくい、SNSでの発信が効果に結びつかないといったお悩みは、まさに「お客様を深く理解する」という視点が不足していることが原因の一つである可能性がございます。
本記事では、そのようなお悩みを抱えるオーナー様に向けて、お客様を多角的に理解し、具体的な経営戦略に落とし込むための強力な手法である「ペルソナ設定」と「カスタマージャーニーマップの作成」に焦点を当て、その実践的なワークショップの進め方を詳細に解説いたします。このガイドが、皆様の事業を次のステージへと導く一助となれば幸甚に存じます。
1. なぜ今、ペルソナ設定とカスタマージャーニーマップが必要なのか?
「売上はあるが利益が出ない」「SNSや集客の手法が分からない」といったお悩みは、多くの場合、「誰に、何を、どのように提供したいのか」という顧客像が曖昧であることに起因します。お客様への想いが強く、料理や空間にこだわりを持つオーナー様ほど、その「想い」が万人に伝わるだろうと無意識のうちに考えてしまいがちです。しかし、現代の多様化した市場において、「なんとなく」の集客やマーケティングでは、お客様の心に響くことは難しくなっております。
ペルソナ設定とカスタマージャーニーマップの作成は、お客様を単なる「ターゲット層」として捉えるのではなく、まるで目の前にいる一人の人物のように深く理解するための手法です。これにより、以下のような具体的なメリットが生まれます。
- 集客施策の明確化: 誰に、どのようなメッセージを、どの媒体で届ければ良いかが明確になります。SNSの投稿内容や、広告戦略が迷いなく決定できるようになります。
- 商品・サービス開発の最適化: お客様のニーズや期待、隠れた不満点が明らかになるため、お客様が本当に求めるメニュー開発やサービス改善に繋がります。
- 顧客体験の向上: お客様がお店を認知してから利用し、再来店に至るまでの感情や行動を予測することで、各接点での顧客満足度を高める施策を講じることが可能となります。
- スタッフ育成・共有の促進: チーム全体でお客様像を共有することで、接客品質の向上や、お客様への提供価値に対する意識統一が図れます。
経営は独学で手探りというオーナー様にとって、これらのツールは、感覚に頼りがちだった経営判断に、明確な根拠と方向性をもたらす羅針盤となるでしょう。
2. ペルソナ設定とは何か?:顧客の「顔」を明確にする
ペルソナ設定とは、自社のお客様を象徴する架空の人物像を、あたかも実在するかのように詳細に設定するマーケティング手法です。単に「30代女性」といった抽象的なターゲット層ではなく、「〇〇(名前)、35歳、都内在住の会社員、趣味はヨガと食べ歩き、休日は友人とカフェ巡りを楽しんでいる。最近は健康志向で、オーガニック食材を使った料理に興味がある。SNSで情報を収集することが多く、特にInstagramで気に入ったお店を見つけては訪問している。」といったように、具体的な情報まで落とし込みます。
このペルソナを設定することで、お客様が何を考え、何に悩み、何を求めているのかを深く理解できるようになります。例えば、新しいメニューを開発する際や、SNSで情報を発信する際に、「〇〇さんだったら、このメニューをどう感じるだろうか?」「〇〇さんに響く投稿とはどんな内容だろうか?」と、具体的なお客様の視点に立って検討できるようになるのです。
お客様への「想い」を大切にするオーナー様にとって、このペルソナは、その想いを具体的な行動へと繋げるための強力な「顔」となることでしょう。

3. ペルソナ設定ワークショップの実践ガイド
ペルソナ設定は、オーナー様お一人で行うことも可能ですが、可能であれば店長や主要スタッフ、あるいはご家族や友人など、客観的な視点を取り入れられる方々と共にワークショップ形式で実施することをお勧めいたします。複数人の視点を取り入れることで、より多角的で深みのあるペルソナを創造することが可能となります。
準備
- 場所: 集中できる静かな場所(店舗の営業時間外など)
- 時間: 2~3時間程度
- 必要なツール:
- 大きなホワイトボードまたは模造紙
- 付箋(複数色)
- 油性ペン
- ペルソナシートのテンプレート(インターネットで検索可能)
- お客様アンケートの結果やSNSの分析データ(あれば尚可)
実践方法
- 目的の共有とアイスブレイク:
- ワークショップの目的(お客様を深く理解し、より良いサービス提供に繋げる)を明確に伝えます。
- 参加者が自由に発言できる雰囲気を作るため、軽いアイスブレイクを行います。「最近、行って良かったお店とその理由」などをテーマにするのも良いでしょう。
- 既存顧客のイメージ共有:
- 「あなたにとって、理想のお客様はどのような方ですか?」という問いかけから始めます。
- 具体的なお客様の顔を思い浮かべ、その方の特徴を自由に付箋に書き出し、ホワイトボードに貼り出していきます。この段階では、具体的なデータがなくても構いません。
- ペルソナの基本情報の洗い出し:
- 貼り出した情報やディスカッションを基に、具体的なペルソナ像の骨格を作ります。以下の項目を参考に、議論を深めていきましょう。
- 名前: 架空の親しみやすい名前をつけます。(例:鈴木 花子)
- 年齢: 具体的な年齢を設定します。(例:35歳)
- 性別: (例:女性)
- 居住地: お店からどの程度の距離に住んでいるか、具体的な地名も想像してみましょう。(例:店舗から電車で30分の〇〇駅周辺)
- 職業と役職: (例:IT企業のマーケティング職)
- 年収: (例:世帯年収800万円)
- 家族構成: (例:夫と子供2人)
- 貼り出した情報やディスカッションを基に、具体的なペルソナ像の骨格を作ります。以下の項目を参考に、議論を深めていきましょう。
- ペルソナの背景とライフスタイルの深掘り:
- より人間味のあるペルソナを形成するため、内面に迫る情報を設定します。
- 趣味・興味: どんなことに時間やお金を使っているか。(例:ヨガ、旅行、カフェ巡り)
- 休日の過ごし方: (例:家族で公園に出かけたり、友人とランチに行ったりすることが多い)
- 座右の銘・信条: その人の価値観が分かるような言葉。(例:「日々の小さな幸せを大切にしたい」)
- 典型的な一日の流れ: 具体的な行動パターンを想像します。
- より人間味のあるペルソナを形成するため、内面に迫る情報を設定します。
- ペルソナの価値観と目標、悩みと課題:
- ここが最も重要な部分です。お客様がお店に何を求め、何に困っているのかを明確にします。
- 価値観: 人生や消費において何を重視しているか。(例:健康、オーガニック、友人との繋がり、非日常体験)
- 目標: 日常で達成したいこと、お店を通じて得たいこと。(例:仕事のストレス解消、美味しい食事で家族の絆を深める、新しい発見)
- 悩み・課題: 日常生活で困っていること、お店選びで不満に感じること。(例:忙しくて自炊の時間が取れない、外食はしたいが健康も気になる、子連れで行けるおしゃれなお店が少ない)
- ここが最も重要な部分です。お客様がお店に何を求め、何に困っているのかを明確にします。
- 情報収集源と行動特性:
- ペルソナがどのような媒体から情報を得て、どのように行動するのかを特定します。
- 情報源: どこからお店の情報を得るか。(例:Instagramのグルメアカウント、Google検索、友人からの口コミ、地域の情報誌)
- SNS利用状況: どのSNSを、どのように利用しているか。(例:Instagramでビジュアル重視の情報をチェック、Facebookでイベント情報を確認)
- 購買行動: どのように意思決定を行うか。(例:口コミや評価を重視する、割引クーポンがあれば利用する)
- ペルソナがどのような媒体から情報を得て、どのように行動するのかを特定します。
- お店に対する期待と利用シーン:
- 設定したペルソナが、あなたの店に何を期待し、どのような状況で利用するかを想像します。
- 来店目的: (例:家族との特別なディナー、友人とのランチ、仕事帰りの一人ご飯)
- お店に求めるもの: (例:健康的なメニュー、落ち着いた空間、子供に優しいサービス、写真映えする料理)
- 設定したペルソナが、あなたの店に何を期待し、どのような状況で利用するかを想像します。
- ペルソナシートの作成と共有:
- 洗い出した情報をテンプレートにまとめ、具体的なペルソナシートを作成します。
- 作成したペルソナシートを参加者全員で共有し、議論を通じてさらにブラッシュアップします。
- 可能であれば、ペルソナの写真を設定することで、よりイメージが定着しやすくなります。
このワークショップを通じて、皆様の店が本当に届けたいお客様の「顔」が、驚くほど明確になることを実感いただけるはずです。
4. カスタマージャーニーマップとは何か?:顧客の「道のり」を可視化する
ペルソナ設定によって、お客様の「顔」が明確になりました。次に必要となるのは、そのお客様がお店を「認知」してから「来店」し、そして「再来店・推奨」に至るまでの「道のり」を可視化することです。これがカスタマージャーニーマップ(顧客体験マップ)です。
カスタマージャーニーマップは、時間軸に沿ってお客様の行動、思考、感情、そしてお店との接点(タッチポイント)を一覧できる図のことです。このマップを作成することで、お客様がどの段階でどのような課題を抱え、どのような感情を抱いているのかを客観的に把握できるようになります。
例えば、「SNSで美味しそうな料理を見つけて興味を持ったが、予約方法が分かりにくくて断念した」「来店時には満足したが、再来店を促すような情報が何もなかった」といった、お客様の隠れた不満点や、改善すべき機会を発見することができます。これにより、単発的な施策ではなく、お客様の体験全体を向上させるための戦略的なアプローチが可能となるのです。
オーナー様の「店を通じて想いを伝えたい」という価値観を実現するためには、お客様がその想いをどのように受け取るのか、そのプロセスを理解することが不可欠です。カスタマージャーニーマップは、そのプロセスを明確にするための不可欠なツールと言えるでしょう。

5. カスタマージャーニーマップ作成ワークショップの実践ガイド
ペルソナ設定ワークショップと同様に、カスタマージャーニーマップ作成も複数人で行うことをお勧めします。特に、接客担当のスタッフなど、お客様と直接接する機会の多いメンバーの参加は、貴重なインサイトをもたらします。
準備
- 場所: 広いスペースがある場所(ホワイトボードや壁に模造紙を広げられる場所)
- 時間: 3~4時間程度(ペルソナ設定に続き、別日に設定しても良い)
- 必要なツール:
- 作成済みのペルソナシート
- 大きな模造紙またはホワイトボード(横長のもの)
- 付箋(複数色、ペルソナワークショップよりも多めに)
- 油性ペン
実践方法
- 目的の共有とペルソナの再確認:
- ワークショップの目的(お客様の体験を可視化し、改善点を見つける)を共有します。
- 前回のペルソナ設定ワークショップで作成したペルソナシートを改めて確認し、参加者全員でペルソナ像を共有します。
- カスタマージャーニーのフェーズ設定:
- 模造紙の横軸に、お客様の来店プロセスにおける主要な「フェーズ」を設定します。一般的には以下のようなフェーズが考えられますが、ご自身の店舗に合わせて調整してください。
- 認知: お店の存在を知る段階(SNS、友人からの口コミ、広告など)
- 興味・検討: お店に興味を持ち、来店を検討する段階(ウェブサイト検索、メニュー確認、口コミ参照など)
- 予約・来店準備: 来店を決意し、予約や準備をする段階(電話予約、オンライン予約、行き方確認など)
- 来店・体験: 実際に来店し、食事やサービスを体験する段階(入店、オーダー、食事、会計、退店など)
- 利用後・再来店: 利用後の行動や感情、再来店や推奨に至る段階(SNS投稿、友人への紹介、次回予約検討など)
- 模造紙の横軸に、お客様の来店プロセスにおける主要な「フェーズ」を設定します。一般的には以下のようなフェーズが考えられますが、ご自身の店舗に合わせて調整してください。
- 各フェーズにおける「顧客の行動」の洗い出し:
- 各フェーズで、設定したペルソナが具体的にどのような行動をとるかを付箋に書き出し、該当するフェーズに貼り付けます。
- 例(認知フェーズ):
- 「Instagramでグルメアカウントをフォローしている」
- 「友人とランチの話題になった」
- 「駅の広告を見た」
- 各フェーズにおける「顧客の思考・感情」の洗い出し:
- それぞれの行動の裏側にあるペルソナの思考や感情を想像し、別の色の付箋に書き出します。ポジティブな感情だけでなく、ネガティブな感情(不満、不安、期待外れなど)も正直に書き出すことが重要です。
- 例(興味・検討フェーズ):
- 行動: 「お店のウェブサイトを見た」
- 思考・感情: 「メニューの価格帯は自分に合っているか?」「子供連れでも大丈夫かな?」「写真のおしゃれさに期待が高まる」
- 各フェーズにおける「顧客との接点(タッチポイント)」の洗い出し:
- ペルソナがあなたの店とどのような接点を持つかを洗い出します。これは、お店側がお客様に働きかける機会でもあります。
- 例(予約・来店準備フェーズ):
- 行動: 「オンラインで予約を試みた」
- 接点: 「予約システム」「予約確認メール」「電話対応」
- 各フェーズにおける「課題と機会」の発見:
- 洗い出した行動、思考・感情、接点を踏まえ、各フェーズでペルソナが抱える「課題(ペインポイント)」と、それを解決するための「機会(改善点や新しい施策のアイデア)」を考え、さらに別の色の付箋に書き出します。
- 例(来店・体験フェーズ):
- 行動: 「料理を待っている」
- 思考・感情: 「早く来ないかな…」「子供が飽きてきた」
- 課題: 「料理提供までの時間が長く感じる」「子供向けの工夫がない」
- 機会: 「待ち時間向けの簡単なアミューズを提供」「子供向けのおもちゃや絵本を用意する」「オーダー時に提供時間の目安を伝える」
- カスタマージャーニーマップの作成と共有:
- 以上の情報を整理し、縦軸に「フェーズ」「行動」「思考・感情」「タッチポイント」「課題」「機会」などを設定したマップを作成します。
- 完成したマップを参加者全員で共有し、議論を通じて「これで本当にペルソナの道のりを捉えられているか」「もっと良い改善策はないか」を深掘りします。
このワークショップを体験することで、皆様の店を「お客様の目」で客観的に見つめ直し、お客様が感動するような体験をデザインするための具体的なヒントが数多く見つかることでしょう。
6. ワークショップを終えて:実践への橋渡し
ペルソナ設定とカスタマージャーニーマップの作成ワークショップは、それ自体が目的ではありません。重要なのは、そこで得られた知見を具体的な経営改善や集客施策へと繋げることです。ワークショップで洗い出した「課題」に対する「機会」を、ぜひ実行可能なアクションプランへと落とし込んでください。
例えば、以下のような具体的な改善策が考えられます。
- SNS運用: ペルソナの情報収集源や価値観に合わせ、投稿内容、時間帯、使用するハッシュタグを見直す。単なる料理写真だけでなく、お店のストーリーやスタッフの人柄が伝わる投稿を心がける。
- メニュー開発: ペルソナの健康志向や家族構成に合わせた、新しいメニューやコースを考案する。
- 店舗デザイン・空間演出: ジャーニーマップで発見された「滞在中の不満」を解消するため、BGMの選曲、照明の調整、キッズスペースの設置などを検討する。
- 接客サービス: スタッフ全員でペルソナとジャーニーマップを共有し、各接点での顧客対応を最適化する。お客様の不安を先回りして解消する声かけや、再来店を促すスマートな案内方法などを標準化する。
- デジタル施策: 予約システムの改善、ウェブサイトの情報充実、オンラインアンケートの実施などを通じて、顧客体験のボトルネックを解消する。
これらの施策は一度実施して終わりではありません。市場やお客様のニーズは常に変化します。そのため、定期的にペルソナやカスタマージャーニーマップを見直し、更新していくことが、持続的な成長には不可欠です。
まとめ
本記事では、飲食店の若手オーナー様に向けて、お客様を深く理解し、具体的な経営戦略に繋げるための「ペルソナ設定」と「カスタマージャーニーマップの作成」ワークショップの実践ガイドを解説いたしました。
料理や空間への「想い」が強いからこそ、それを「誰に、どう伝えるか」という視点は、時に見落とされがちです。しかし、この二つのツールを用いることで、皆様の熱い想いが、お客様一人ひとりの心に届く具体的な形へと変わることを実感いただけるはずです。
お客様の「顔」を明確にし、「道のり」を可視化することは、単に売上や利益を増やすだけでなく、お客様とのより深い関係性を築き、皆様の店を唯一無二の存在へと高めるための強力な礎となります。ぜひこの実践ガイドを参考に、皆様のチームと共に一歩踏み出し、お客様を真に理解する経営を実践していただきたいと存じます。
詳細はお問い合わせください。

