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はじめに:テイクアウト・物販はチャンス!だからこそ知るべき「食品表示の壁」
皆様、日々の店舗運営、誠にお疲れ様でございます。厨房に立ち、お客様の笑顔を想いながら料理と空間づくりに情熱を注いでいらっしゃるかと存じます。料理人出身、現場上がりのオーナー様だからこそ、品質へのこだわりやお客様への想いは人一倍お持ちのことでしょう。
近年、お客様の多様なニーズに応えるため、テイクアウトやデリバリー、さらには店舗で提供するこだわりの調味料や焼き菓子といった物販事業へ参入される飲食店様が増加の一途を辿っております。これらは、売上を拡大し、ブランド価値を高める新たなチャンスであると同時に、これまで店内飲食ではあまり意識することのなかった「食品表示」という新たな壁に直面するきっかけでもあります。
「表示なんて、何となくでいいだろう」「面倒だし、とりあえず後回しで……」とお考えになるお気持ちも、現場を経験してきた私には痛いほど理解できます。しかし、食品表示法は、お客様の安全と信頼を守り、そして何よりも貴店の事業を安定させ、将来的な成長を支えるための重要な基盤となります。
本記事では、皆様が直面しがちな食品表示に関する疑問や課題に対し、飲食業界の経営コンサルタントとして、専門的かつ実践的な視点から解説してまいります。複雑に感じられる法令のポイントを分かりやすく紐解き、具体的な表示例や注意点、そして食品表示を正しく行うことで得られる経営上のメリットまで、貴店の信頼と成長に繋がる実用的な情報を提供いたします。さあ、共にこの「食品表示の壁」を乗り越え、貴店の事業をさらに発展させていきましょう。
1. そもそも食品表示法とは?飲食店経営者が知るべき基本
食品表示法は、消費者庁が所管する法律で、消費者が食品を安全に、そして安心して選択できるよう、食品に関する様々な情報を表示することを義務付けています。この法律は、国民の健康の保護及び増進、食品の適切な選択、事業者間の公正な競争環境の確保を目的としております。
特にテイクアウトや物販を行う飲食店様にとって、この食品表示法は避けて通れない重要な法令となります。店内での提供では適用されなかった表示義務が、容器包装された食品を販売する際には発生するため、その基本を正確に理解しておくことが不可欠です。
1.1. 食品表示法の対象となる食品
食品表示法の主な対象は、大きく分けて以下の通りです。
- 加工食品(容器包装されたもの): テイクアウトの弁当、惣菜、自家製パン、菓子、調味料などがこれに該当します。
- 生鮮食品(容器包装されたもの): 精肉、鮮魚、野菜などで、店頭で個別に包装して販売する場合が該当します。
- 添加物: 食品添加物として販売されるもの。
- 遺伝子組換え食品: 特定の遺伝子組換え農産物及びそれを原材料とする加工食品。
飲食店様がテイクアウトや物販を行う際、多くの場合「容器包装された加工食品」として扱われます。これにより、従来の店内飲食とは異なる厳しい表示義務が課されることになります。
1.2. 主な表示事項の概要
食品表示法において、加工食品に義務付けられている表示事項は多岐にわたりますが、特に飲食店様が注意すべき主要な項目は以下の通りです。
- 名称: その食品が何であるかを具体的に示す名称です。
- 原材料名: 使用している全ての原材料を重量割合の多い順に表示します。食品添加物もここに含みます。
- 内容量: その食品の量を示します。
- 消費期限または賞味期限: 安全に食べられる期間、美味しく食べられる期間を表示します。
- 保存方法: 品質を保つための適切な保存方法を表示します。
- 製造者等: 食品を製造した者の氏名または名称、及び所在地を表示します。
- アレルギー表示: 特定原材料7品目(卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに)及び特定原材料に準ずるもの21品目について表示します。
- 栄養成分表示: エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の表示が義務付けられています。
これらの項目を適切に表示することは、単なる義務ではなく、お客様への誠実な情報提供であり、貴店の信頼性を高める重要な要素であるとご理解ください。
2. テイクアウト・デリバリーで特に注意すべき食品表示のポイント
皆様の店舗で提供されている魅力的な料理を、お客様がご家庭で楽しめるテイクアウトやデリバリーは、今や飲食店経営に欠かせない要素となりました。しかし、この形態での販売は、店内飲食とは異なる食品表示のルールが適用されるため、細心の注意が必要です。
2.1. 「その場で消費されるもの」と「持ち帰られるもの」の違い
食品表示法において、最も重要な区分けの一つが、「その場で消費されるもの」と「持ち帰られるもの」の違いです。
- 店内飲食(その場で消費されるもの): 店内で提供され、その場で喫食される料理は、基本的に食品表示法の対象外となります。アレルギー情報などは、口頭やメニュー表記での説明が一般的です。
- テイクアウト・デリバリー(持ち帰られるもの): お客様が自宅などに持ち帰って消費する弁当、惣菜、パンなどは、「容器包装された加工食品」と見なされ、原則として食品表示法の表示義務が適用されます。
この違いを理解することが、適切な食品表示を行う上での第一歩となります。お客様が持ち帰る、あるいは配達される商品には、法律で定められた項目を全て表示する必要があるのです。
2.2. 必要となる表示項目とその詳細
テイクアウト・デリバリー商品に必要な表示項目について、具体的に解説いたします。
- 名称
- 商品名だけでなく、その種類(例:弁当、サンドイッチ、洋生菓子)を具体的に表示します。
- 「〇〇弁当」「〇〇サンドイッチ」のように、内容を想像しやすい名称が望ましいです。
- 原材料名
- 使用したすべての原材料を、重量割合の高い順に表示します。
- 調味料や添加物(着色料、保存料など)も、個別に表示する必要があります。
- 例:「米、鶏肉(国産)、卵、醤油、砂糖、みりん、食塩、酒精」
- 実践ガイド:原材料名のリストアップ方法
- 全ての仕入れ先から、使用している食材、調味料、添加物の情報を入手します。
- レシピを元に、各材料の使用量を算出し、重量割合の高い順に並べ替えます。
- 複合原材料(例:焼肉のたれ)を使用している場合は、その複合原材料に含まれる成分(例:醤油、砂糖、にんにく、ごま油)も個別に表示する必要があります。
- 内容量
- グラム(g)、ミリリットル(ml)、個数など、具体的な単位で内容量を表示します。
- 「1個」「〇〇g」といった形で記載します。
- 消費期限または賞味期限
- 消費期限: 安全に食べられる期限。「日持ちが短い食品」(製造後5日以内が目安)に表示されます。これを過ぎると飲食しない方が良いとされています。
- 賞味期限: 品質が変わらずに美味しく食べられる期限。「比較的日持ちのする食品」に表示されます。これを過ぎても直ちに食べられなくなるわけではありませんが、風味や品質が低下する可能性があります。
- 実践ガイド:期限の設定方法
- 原則として、細菌検査機関での理化学試験(保存試験)を実施し、科学的な根拠に基づいて設定します。
- 自社で設定が困難な場合は、専門機関への依頼を検討してください。
- 製造日、保存方法を考慮して、安全側に立った設定を心がけます。
- 保存方法
- 適切な温度帯(例:要冷蔵10℃以下、直射日光・高温多湿を避けて保存)を具体的に表示します。
- 「開封後はお早めにお召し上がりください」といった注意書きも併記するとより丁寧です。
- 製造者等
- 製造所の所在地(住所)及び製造者の氏名または名称(店名や会社名)を表示します。
- 法人であれば、法人名と代表者名を記載することが一般的です。
- アレルギー表示
- 特定原材料7品目(卵、乳、小麦、そば、落花生、えび、かに)の使用有無は義務表示です。
- 特定原材料に準ずるもの21品目(アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン)についても、表示が推奨されています。
- 実践ガイド:アレルギー表示の注意点
- 調理器具や設備を共有することで、意図せずアレルギー物質が混入する可能性(コンタミネーション)がある場合は、「本品製造工場では、卵、乳成分、小麦を含む製品を製造しています」といった注意喚起表示も検討しましょう。ただし、これは免責ではなく、可能な限り混入を防ぐ努力が前提です。
- 原材料の変更がないか、常に仕入れ先からの情報を確認する体制を構築してください。
- 栄養成分表示
- エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の5項目が義務付けられています。
- ただし、飲食店が提供するテイクアウト・デリバリー商品については、現時点では「消費者向けに提供する食品(不特定多数に販売される加工食品)」とは異なる区分とされ、義務表示の対象外となるケースが多いです。しかし、健康志向の高まりから、表示することで顧客への信頼性が向上するため、努力義務として検討することをお勧めいたします。
- 実践ガイド:栄養成分表示の対応
- 表示する場合は、分析機関での検査、または栄養成分計算ソフトの利用が一般的です。
- 表示しない場合でも、お客様から問い合わせがあった際に答えられるよう、大まかな情報把握はしておくと良いでしょう。
これらの表示項目は、お客様の食の安全を守り、貴店への信頼を築く上で極めて重要な情報源となります。

3. 物販(自家製調味料、菓子、パン等)を行う際の食品表示の注意点
テイクアウトやデリバリーとは異なり、長期保存を前提とした自家製調味料、瓶詰めの惣菜、焼き菓子、パンなどを店舗で販売する「物販」は、より一層「加工食品の製造販売」という側面が強くなります。これにより、食品表示法の遵守はもちろんのこと、別途、製造に関する営業許可やHACCPに沿った衛生管理の義務も発生する可能性があります。
3.1. 加工食品としての義務と必要な許可
物販を行う場合、その商品は完全に「容器包装された加工食品」として扱われます。このため、テイクアウト・デリバリー以上に厳密な管理と表示が求められます。
- 製造所の営業許可: 店舗で製造したものを物販として販売する場合、別途「菓子製造業」や「漬物製造業」「そうざい製造業」などの製造業の営業許可が必要となる場合があります。現在の飲食店営業許可だけでは物販ができないケースが多いため、管轄の保健所に必ず確認してください。
- HACCPに沿った衛生管理: 製造業の許可が必要な場合、原則としてHACCPに沿った衛生管理計画の策定と実施が義務付けられます。
3.2. テイクアウト・デリバリーとの共通点と相違点
物販における食品表示の項目は、テイクアウト・デリバリーと基本的に共通していますが、以下のような点でより厳格な対応が求められます。
- 共通点:
- 名称、原材料名、内容量、期限表示、保存方法、製造者等、アレルギー表示、栄養成分表示(義務または努力義務)は全て共通して必要です。
- 相違点(より厳格な対応が求められる点):
- 期限設定: テイクアウトよりも保存期間が長くなるため、より厳密な保存試験に基づいた期限設定が不可欠です。賞味期限の根拠を明確に説明できるよう準備しておく必要があります。
- 表示媒体: 大量生産する場合や、外部の販売チャネル(スーパー、ECサイトなど)に卸す場合は、専用のラベルを印刷業者に依頼することが一般的です。手書き表示では対応しきれない場面が増えます。
- 原産地表示: 輸入原材料だけでなく、加工食品の原材料に占める割合が最も高い生鮮食品(例:ジャムのいちご)については、原産地の表示義務が発生する場合があります。
3.3. 具体的な表示例とよくある間違い
物販での食品表示について、よくある間違いと適切な対応をご紹介します。
- よくある間違い1:手書き表示の限界
- 少量の自家製物販であれば手書き表示も可能ですが、表示すべき情報量が多い、または販売量が増える場合は、不鮮明になったり漏れが生じたりするリスクが高まります。
- 実践ガイド: PCで作成したラベルを印刷し、商品に貼り付けるのが最も確実です。必要であれば専門業者に依頼することも検討しましょう。表示内容が均一で、かつ読みやすいことが重要です。
- よくある間違い2:曖昧な賞味期限設定
- 「なんとなく〇週間」「一般的な〇ヶ月」といった根拠のない期限設定は非常に危険です。
- 実践ガイド: 自社製品に特化した保存試験を専門機関に依頼し、科学的データに基づいて賞味期限を設定してください。微生物検査や理化学検査を通じて、製品の品質変化を把握することが重要です。
- よくある間違い3:アレルギー表示の漏れや誤り
- 「少ししか入っていないから大丈夫だろう」という認識は厳禁です。微量であってもアレルギー症状を引き起こす可能性があります。
- 実践ガイド: 原材料の全ての成分を確認し、特定原材料及びそれに準ずるものが含まれていないか徹底的に確認します。製造工程でのコンタミネーションについても真摯に向き合い、適切な表示を検討してください。
物販は、貴店のブランドを広げ、新たな収益の柱となる可能性を秘めています。しかし、そのためには、食品製造業者としての責任を十分に果たし、法規制を厳守することが不可欠です。
4. 実践!食品表示を正しく行うためのステップ
「食品表示の重要性は理解できたが、具体的に何をすれば良いのか?」という疑問をお持ちかと存じます。日々の業務でお忙しい中、これらの法規制を全て把握し、実行するのは決して容易なことではございません。しかし、一つずつ着実に進めていけば、必ず実現可能です。ここでは、食品表示を正しく行うための具体的なステップを箇条書きで整理し、皆様の実践をサポートいたします。
4.1. 貴店の商品を確認する
貴店で提供している商品を改めて見直し、食品表示が必要なものとそうでないものを明確に区分することから始めます。
- 店内飲食: 基本的に表示不要(アレルギーは別途口頭・メニュー表示)。
- テイクアウト・デリバリー: 容器包装されたもの全て表示が必要。
- 物販(自家製加工品): 全て表示が必要。別途製造業の許可が必要な場合があるため、保健所への確認必須。
4.2. 各商品の表示項目を洗い出す
表示が必要と判断された商品について、一つずつ表示項目を詳細に洗い出します。
- 原材料リストアップ
- 商品に使用されている全ての食材、調味料、食品添加物を漏れなくリストアップします。
- 仕入れ先から提供される原材料情報(名称、産地、アレルギー物質、添加物など)を収集し、常に最新の状態に保ちます。
- 複合原材料(例:カレー粉、めんつゆ)を使用している場合は、その中に含まれる個々の原材料も確認し、表示可能であれば表示します(原則として、重量割合の高い順に表示)。
- アレルギー物質の確認
- リストアップした原材料全てについて、特定原材料7品目、準特定原材料21品目の含有有無を確認します。
- 製造工程におけるコンタミネーションの可能性も評価し、必要であれば注意喚起表示を検討します。
- 賞味期限・消費期限の設定
- 商品の特性(水分量、pH、保存方法など)を考慮し、科学的根拠(外部機関での保存試験データ等)に基づいて設定します。
- 安易な「感覚」での設定は避け、必ず客観的なデータに基づいて決定してください。
- 保存方法の明確化
- 適切な温度帯(例:要冷蔵10℃以下、常温保存)と、直射日光・高温多湿を避けるといった具体的な方法を定めます。
- 製造者情報の整理
- 表示する「製造者の氏名または名称」と「所在地」を明確にします(法人名、店舗名、住所など)。
4.3. 表示ラベルの作成と運用
洗い出した情報を基に、実際に表示ラベルを作成し、運用体制を構築します。
- 表示媒体の選択
- 手書き: 少量生産、一時的な提供の場合に限られます。文字が明瞭で正確である必要があります。
- PC作成・印刷: 最も一般的で、表示内容の均一性、変更の容易さ、コストのバランスが良い方法です。市販のラベル用紙やラベル作成ソフトを活用します。
- 専門業者への依頼: 大量生産、デザイン性を重視する場合に適しています。
- テンプレートの活用
- 基本的な表示項目を盛り込んだテンプレートを作成し、商品ごとに必要な情報を入力する形式にすると効率的です。
- 表示例を参考に、必要な項目が漏れなく記載されているか確認します。
- 表示位置・文字サイズの確認
- お客様が見やすい位置に、十分な大きさの文字で表示することが義務付けられています。容器包装の面積に応じて適切に配置します。
- スタッフへの教育と確認体制の構築
- 食品表示に関する基本的な知識と、各商品の表示内容、ラベルの貼り方などを全スタッフに共有し、徹底させます。
- 製造・梱包時に表示内容が正確か、漏れがないかを確認するチェック体制を構築します。ダブルチェックや責任者による最終確認を行うとより確実です。
4.4. 定期的な見直しと情報更新
食品表示は一度行ったら終わりではありません。常に最新の情報に更新し続けることが重要です。
- 原材料の変更時: 仕入れ先や使用する原材料が変更になった場合は、速やかに表示内容を見直します。
- メニュー・商品の変更時: 新商品の導入や既存商品のレシピ変更があった場合も、その都度表示内容を更新します。
- 法令改正への対応: 食品表示法は定期的に改正される可能性があります。消費者庁や保健所の情報をこまめに確認し、最新の法令に準拠するよう努めます。
これらのステップを確実に実行することで、貴店の食品表示は法令を遵守し、お客様の信頼を勝ち取る強固な土台となるでしょう。

5. 食品表示の違反事例とペナルティ
食品表示法を軽視し、不適切な表示を行った場合、単なる「うっかりミス」では済まされない事態に発展する可能性があります。違反行為は、貴店の信用を大きく損なうだけでなく、法的な罰則の対象ともなり得ます。ここでは、具体的な違反事例と、それがもたらすペナルティについて解説いたします。
5.1. 違反のリスク:行政指導から事業停止まで
食品表示法に違反した場合、その内容や度合いに応じて様々な措置が講じられます。
- 行政指導・改善命令: 表示内容の不備や誤りが見つかった場合、まず行政機関(保健所など)から改善指導や改善命令が出されます。
- 課徴金制度: 不当な表示により消費者に誤認を与えた場合、売上額に応じて課徴金が課されることがあります。
- 営業停止・許可取り消し: 改善命令に従わない場合や、悪質な違反を繰り返す場合、最悪の場合、営業停止処分や営業許可の取り消しに繋がる可能性があります。
- 刑事罰: 虚偽表示や悪質な偽装表示は、食品表示法だけでなく、景品表示法や不正競争防止法などの他法令にも抵触し、懲役や罰金といった刑事罰の対象となることがあります。
- 信用失墜: 最も大きなダメージは、お客様や取引先からの信用を失うことです。一度失った信用を取り戻すのは容易ではなく、事業継続そのものが困難になることもございます。SNS等で情報が拡散される現代においては、その影響は甚大です。
5.2. 具体的な違反事例
実際に発生している食品表示の違反事例には、以下のようなものが挙げられます。
- 虚偽表示・偽装表示:
- 原産地を偽る(例:外国産を国産と表示)。
- 使用していない高級食材が表示されているかのように見せかける。
- 実際には人工甘味料を使用しているのに「無糖」と表示する。
- 表示漏れ:
- 原材料の一部、特にアレルギー物質の表示が漏れている。
- 消費期限や賞味期限、保存方法の記載がない。
- 製造者情報の記載がない。
- 不適切な期限設定:
- 科学的根拠なく、実際よりも長い消費期限・賞味期限を設定していた。
- 期限表示がない。
- 誤解を招く表示:
- 根拠がないのに「無添加」「オーガニック」と表示する。
- 実際の内容量と表示が異なる。
- 表示方法の不備:
- 表示が見えにくい(文字が小さすぎる、印字が薄い)。
- 必要な項目が全て表示されていない。
これらの事例は、お客様の健康を脅かすだけでなく、公正な競争環境を阻害する行為として厳しく取り締まられます。
「知らなかった」では済まされないのが法律の世界です。常に正しい知識を持ち、誠実な情報提供を心がけてください。
6. 食品表示をクリアにすることで得られる経営上のメリット
食品表示法への対応は、一見すると手間やコストがかかる「義務」と捉えられがちです。しかし、これを「投資」と考えることで、貴店に多大な経営上のメリットをもたらします。むしろ、正しく食品表示を行うことは、貴店のブランド価値を高め、事業を盤石にするための重要な戦略なのです。
6.1. お客様からの信頼獲得
現代の消費者は、食に対する関心が高く、安心・安全を強く求めています。透明性の高い食品表示は、お客様に大きな安心感を与え、貴店への揺るぎない信頼へと繋がります。
- 安心感の提供: 原材料、アレルギー情報、期限などが明記されていることで、お客様は安心して商品を選択できます。特にアレルギーを持つ方にとっては、命に関わる重要な情報です。
- ブランドイメージの向上: 法令を遵守し、誠実な情報提供を行う姿勢は、貴店の企業倫理の高さを示すものです。これにより、「信頼できるお店」「品質にこだわっているお店」というポジティブなブランドイメージが確立されます。
- 顧客満足度の向上: お客様が納得して商品を選び、安全に楽しめることは、顧客満足度に直結します。リピーターの増加にも繋がり、安定した売上基盤を構築できます。
6.2. トラブル・クレームの回避
不適切な食品表示は、食中毒やアレルギー事故、内容量に関するクレームなど、様々なトラブルの原因となり得ます。正しい表示は、これらのリスクを未然に防ぎ、貴店を守る「お守り」としての役割を果たします。
- 食中毒・アレルギー事故のリスク軽減: 適切な期限表示や保存方法の明記、正確なアレルギー表示は、お客様が不適切な摂取を避け、食の安全を確保するために不可欠です。万が一の事故を未然に防ぐことに繋がります。
- 法的トラブルの防止: 表示違反による行政処分や訴訟のリスクを回避できます。法的なリスクを低減することは、経営の安定化に直結します。
- クレーム対応の効率化: 表示内容が明確であれば、お客様からの問い合わせやクレームにも根拠を持って対応できます。誤解や認識違いによる無用なトラブルを減らすことができます。
6.3. 経営の安定化と成長への貢献
食品表示を適切に行うことは、単なるリスク回避に留まらず、貴店の経営を安定させ、新たな成長機会を創出する基盤となります。
- 新たな販売チャネルへの展開: 食品表示の体制が整っていれば、ECサイトでの全国販売や、道の駅、スーパー、百貨店など、外部の小売店への販路拡大が容易になります。これは、事業の多角化と売上増に直結します。
- 事業拡大の基盤強化: テイクアウトや物販事業の規模を拡大する際も、食品表示に関するノウハウが蓄積されているため、スムーズな展開が可能です。将来的に工場を構えるなど、本格的な食品製造業への参入も見据えられます。
- 従業員の意識向上: 食品表示の重要性を従業員全員で理解し、適切に対応する文化が根付くことで、食の安全に対する意識全体が高まります。これは、店舗全体の品質管理体制の強化にも繋がります。
食品表示への取り組みは、手間がかかるように見えても、長期的に見れば貴店の信頼と成長を守り、新たなビジネスチャンスを切り開くための不可欠な投資であると、私は確信しております。
おわりに:食品表示は「お守り」であり「成長の礎」です
ここまで、飲食店の食品表示法について、テイクアウト・物販を中心に解説してまいりました。多岐にわたる項目、専門的な内容も多く、お忙しいオーナー様にとって、これらの情報を日々の業務に落とし込むのは決して楽な道のりではないかもしれません。しかし、どうかこの「食品表示」を単なる義務や負担として捉えないでいただきたいと心より願っております。
食品表示は、お客様の健康と安全を守るための「お守り」であると同時に、貴店の信用を築き、新たな事業展開を可能にする「成長の礎」となるものです。正しく、誠実に情報を開示することで、お客様からの信頼は揺るぎないものとなり、それが貴店のブランド価値を高め、確かな成長へと繋がっていくことでしょう。
料理人として、現場で培われた貴店のこだわりや情熱を、テイクアウトや物販という形でさらに多くのお客様に届けるためにも、食品表示は避けて通れない大切なプロセスです。一つずつ着実に、そして確実に実行していくことで、貴店の未来は一層明るく拓けるはずです。
もし、この記事をお読みになり、さらに詳細な情報が必要だと感じられたり、具体的な商品の表示について相談したいとお考えでしたら、どうぞご遠慮なくご相談ください。現場上がりの先輩オーナーとして、皆様の事業がより一層発展するよう、伴走させていただきます。
詳細はお問い合わせください。

