飲食店の常連客(リピーター)を増やす具体的な施策と接客術の実践ガイド

はじめに

若手オーナーの皆様、日々の店舗運営、誠にお疲れ様でございます。

料理への深いこだわり、あるいはお客様を第一に想うホスピタリティ精神を胸に、ご自身の店舗を築き上げられていることと存じます。しかしながら、日々の売上を確保しつつ、安定した利益を生み出す経営基盤の確立には、多くのオーナー様がご苦労されていることと拝察いたします。特に、「売上はあるものの利益がなかなか増えない」「新規顧客の集客コストがかさんでいる」といったお悩みは、現場出身のオーナー様からよくお伺いする課題です。

SNSでの集客手法や数字管理、スタッフ育成など、経営に関する悩みは尽きないことでしょう。そのような中で、店舗経営の安定化と利益向上に直結する最も重要な要素の一つが、「常連客(リピーター)」の存在に他なりません。

本記事では、飲食店の常連客(リピーター)を増やすための具体的な施策と、実践的な接客術について、私のこれまでの知見と経験に基づき、詳細に解説してまいります。皆様の店舗が、お客様にとって唯一無二の存在となり、地域に根差した繁盛店へと成長していくための一助となれば幸いです。

なぜ今、リピーター獲得が重要なのか?

現代の飲食業界は競争が激化し、新規顧客の獲得コストは年々増加傾向にあります。そのような状況において、安定的な経営と持続的な成長を実現するためには、いかにして新規顧客を「常連客」へと育成し、「ファン」として定着させるかが鍵となります。

リピーターが増えることには、以下のような多大なメリットがございます。

  • 利益率の向上: 新規顧客を獲得するための広告宣伝費や販促費は、決して少なくありません。一方、既存のお客様が再度来店される場合、これらのコストはほとんど発生しません。これにより、売上に占める利益の割合、すなわち利益率を大幅に向上させることが可能です。
  • 売上の安定化: 景気の変動や季節要因に左右されにくい、安定した売上基盤を築くことができます。毎月の売上予測が立てやすくなり、経営計画も安定します。
  • 「顧客生涯価値(LTV)」の最大化: 一人のお客様が、生涯にわたって店舗にもたらしてくれる利益をLTVと呼びます。リピーターが増えることで、このLTVが飛躍的に高まり、長期的な視点での収益性が向上します。
  • 強力な口コミ効果: 常連客は、単に繰り返し来店するだけでなく、その店舗の魅力を周囲に語り、新たな顧客を呼び込む「伝道師」のような存在となります。SNSでのシェアや友人への紹介は、最も信頼性の高いプロモーションであり、新規顧客獲得の強力な武器となります。
  • 顧客からのフィードバック: 常連客は、店舗の改善点や新しいメニューへの意見など、貴重なフィードバックを直接提供してくれることが多々あります。これにより、店舗は常に進化し続けることができます。

これらの理由から、リピーター獲得は単なる売上アップ策に留まらず、店舗の未来を決定づける重要な経営戦略であると言えるでしょう。

リピーターを育むための「土台作り」

具体的な施策や接客術に入る前に、最も重要となるのは、お客様が「また来たい」と心から思えるような店舗の「土台」をしっかりと構築することです。いくら高度な集客施策や接客術を実践しても、店舗の基本的な魅力が欠けていては、常連客の育成は困難です。

以下の要素は、お客様の満足度を左右し、リピートに繋がる基盤となります。

1. 料理・ドリンクの品質と独自性

  • 味の安定性: いつ来店しても「美味しい」と感じられる、安定した味を提供することは基本中の基本です。
  • 食材へのこだわり: 産地、鮮度、調理法など、料理人がこだわり抜いた食材を使用することで、お客様に感動と安心を提供できます。
  • メニューの魅力: 季節ごとの限定メニュー、看板メニュー、他店にはないオリジナルメニューなど、お客様を飽きさせない工夫が必要です。
  • ドリンクペアリング: 料理と相性の良いドリンクの提案や、珍しいお酒のラインナップは、お客様の滞在満足度を高めます。

2. 空間・雰囲気の心地よさ

  • コンセプトの一貫性: 店内のデザイン、BGM、照明、食器など、店舗のコンセプトに合わせた統一感を演出することで、お客様は心地よい非日常感を味わうことができます。
  • 快適な座席配置: お客様同士の距離感、動線、テーブルや椅子の快適さなど、物理的な快適性もリピートに繋がります。
  • 清潔感と衛生管理: トイレを含め、店内の隅々まで清掃が行き届いているか、清潔感が保たれているかは、お客様が安心して過ごせるかどうかの重要な要素です。

3. スタッフの意識統一とホスピタリティ

  • 「おもてなし」の心: お客様一人ひとりに合わせた細やかな気配りや、心地よい距離感のサービスを提供できるかどうかが、店舗の印象を大きく左右します。
  • 挨拶と笑顔: お客様を温かく迎え入れ、笑顔で接することは、基本的ながら非常に重要です。
  • 情報共有の徹底: お客様の好みやアレルギー、記念日といった情報をスタッフ間で共有し、お客様が来店するたびに「前回と同じように」あるいは「より良いサービス」を提供できる体制を整えます。

これらの土台がしっかりと築かれてこそ、次に解説する具体的な施策や接客術が効果を発揮し、お客様は「またあの店に行きたい」と感じるようになるのです。

Asian female servicing at a restaurant

【実践】顧客を「ファン」に変える具体的な施策

ここからは、お客様を単なる来店者から「常連客」、さらには「店舗のファン」へと進化させるための具体的な施策について、来店前、来店中、来店後のフェーズに分けて解説いたします。

1. 来店前施策:期待値を高め、来店を促す

お客様が店舗を訪れる前から、リピートへの布石を打つことができます。

  • 予約時のパーソナルな対応
    • 電話予約の場合、お客様の声のトーンから「どのような体験を求めているか」を想像し、適切な情報提供や提案を行う。
    • ウェブ予約の場合、予約フォームに「アレルギーや苦手なもの」「記念日かどうか」といった項目を設けることで、来店時のサービスに繋げる。
    • 可能であれば、予約時に「お名前」を伺い、来店時にスマートにお声がけできるよう準備する。
  • SNSでの魅力的な情報発信
    • 料理や空間へのこだわり: 美しい写真や動画で、料理のシズル感や店舗の雰囲気を伝える。料理が作られる過程や、使用する食材の背景などを紹介することで、共感を呼ぶ。
    • スタッフの人間性: スタッフ紹介や日常の様子を投稿し、お客様に親近感を持ってもらう。
    • イベントや限定メニューの告知: 常連客限定のイベントや、季節限定・数量限定のメニューを告知し、特別感を演出する。
    • お客様との交流: お客様からのコメントやDMには丁寧に返信し、エンゲージメントを高める。
  • ウェブサイト・メニューの魅力的な見せ方
    • シンプルで分かりやすい料金体系、魅力的な写真を用いたメニュー構成。
    • オーナーの想いや店舗のコンセプトを伝えるページを設ける。
    • アクセス情報や営業時間など、お客様が知りたい情報を分かりやすく掲載する。

2. 来店中施策:記憶に残る「特別」な体験を提供する接客術

お客様が店舗に滞在している間は、リピーター育成の最重要フェーズです。細やかな気配りと、お客様に寄り添う姿勢が求められます。

(1) お客様を「個」として認識する接客術

  • お客様の名前を覚える・呼ぶ: 予約名簿や入店時の会話からお名前を把握し、スマートに「〇〇様、本日はありがとうございます」と声をかける。人間は自分の名前に最も反応すると言われます。
  • お客様の情報を共有する:
    • アレルギーや苦手な食材、好みの味付け、好き嫌い。
    • 誕生日や記念日、特別な目的での来店。
    • 過去の来店時に注文されたメニューやドリンク。
    • これらの情報をスタッフ間で共有し、次回の来店時に活かせるよう、顧客カルテやメモを活用します。
  • パーソナルな会話と記憶:
    • 「前回も同じメニューをご注文でしたね、お気に召していただけて嬉しいです」
    • 「〇〇様、前回お話しされていた旅行はいかがでしたか?」
    • このような会話は、お客様に「自分のことを覚えてくれている」という喜びと信頼感を与えます。
  • 特別な体験の提供(プチサプライズ)
    • 誕生日のお客様へ、ささやかなデザートプレートやメッセージカードをサプライズで提供する。
    • 初めて来店されたお客様に、おすすめの一品をサービスする。
    • 常連のお客様へ、まだメニューにはない試作料理を味見してもらう。
    • これらの小さな心遣いが、お客様の心に深く刻まれます。
  • 感謝の表現と見送り
    • 会計時や退店時に、お客様の目を見て、心からの感謝を伝える。
    • 「またのお越しをお待ちしております」だけでなく、「〇〇様、またお会いできるのを楽しみにしております」と、再会を期待する言葉を添える。
    • お客様が見えなくなるまでお見送りすることで、最後の印象を良いものにします。

(2) 仕組みとしての工夫

  • ポイントカード・会員制度の導入:
    • 来店回数や利用金額に応じてポイントを付与し、特典(割引、限定メニュー、優先予約など)を提供します。
    • デジタル化された会員カードであれば、顧客データの蓄積にも繋がります。
  • 次回予約の促進:
    • 会計時や退店時に、「次回のご予約はいかがですか?」とスマートに声がけする。
    • 「〇月〇日頃には、新しい旬の食材が入荷します」といった具体的な情報提供と合わせて提案する。
    • 次回予約で割引や特典を付けるのも有効です。
  • サンクスカード・メッセージ:
    • テーブル会計の際に、手書きのサンクスカードやメッセージを添える。
    • 特に記念日などで利用されたお客様には、店を出る前に渡すことで感動を与えられます。
  • 顧客データベース(DB)の活用:
    • 顧客の名前、連絡先、来店履歴、注文履歴、好み、アレルギー、誕生日、記念日などの情報を一元管理します。
    • このデータに基づいて、パーソナルなDM送信やイベント告知などを行うことが可能になります。

3. 来店後施策:関係性を継続し、次回の来店を確実にする

お客様が店舗を後にした後のフォローアップも、リピーター育成には欠かせません。

  • お礼メール・メッセージの送信:
    • 来店されたお客様に対し、感謝の気持ちを込めたお礼のメールやLINEメッセージを、来店から24時間以内に送信する。
    • その際、「本日は〇〇をご注文いただきありがとうございました」のように、具体的な内容に触れることで、定型文ではないことをアピールします。
    • 次回の来店に繋がるような情報(新しいメニューの告知、イベント情報など)も添える。
  • アンケート・フィードバックの収集:
    • お客様からの率直な意見や感想を募ることで、サービス改善に役立てます。
    • メールでのアンケートや、SNSのストーリーズ機能などを活用します。
    • 良い意見はSNSで紹介し、悪い意見は真摯に受け止め改善に繋げます。
  • 顧客に合わせたイベント・キャンペーン告知:
    • 顧客DBを活用し、お客様の来店履歴や好みに合わせた情報(例: ワイン好きのお客様にワインイベントの告知)を送信します。
    • 常連客限定の試食会や貸切イベントなども、特別感を高める良い機会です。
  • SNSでの交流継続:
    • お客様が店舗の写真をSNSに投稿してくれたら、積極的に「いいね」やコメントで反応する。
    • お客様からの質問やメッセージには迅速かつ丁寧に返信する。
    • 店舗の日常やスタッフの裏側など、親近感の湧くコンテンツを継続的に発信する。

スタッフ全員で取り組む「リピーター育成」の仕組み

常連客を増やす取り組みは、オーナー様一人の努力で完結するものではありません。店舗全体のスタッフが、共通の意識を持ち、連携して取り組むことが不可欠です。

  • 情報共有の徹底:
    • 毎日の営業前ミーティングで、予約状況とお客様の情報(初めてのお客様か、常連様か、好みや特記事項など)を共有する。
    • 顧客カルテや日報を通じて、お客様からのフィードバックやスタッフが気づいた点を記録し、全員で共有・活用する文化を築きます。
  • 接客マニュアルの整備とロープレ:
    • 基本的な挨拶から、料理の説明、会計、見送りに至るまで、一貫した質の高いサービスを提供できるようマニュアルを整備します。
    • 定期的にロープレ(ロールプレイング)を実施し、お客様役とスタッフ役に分かれて実践練習を繰り返すことで、接客スキルと応用力を高めます。
  • スタッフへの教育とモチベーション向上:
    • リピーター育成の重要性をスタッフ全員が理解できるよう、定期的な研修や勉強会を行います。
    • お客様からのお褒めの言葉を共有したり、リピーター育成に貢献したスタッフを表彰したりするなど、モチベーションを高める工夫を凝らします。
    • 「お客様に喜んでいただく」という原点に立ち返り、スタッフ自身がサービスを楽しむ姿勢を育みます。
  • オーナーが率先して見本を示す:
    • オーナー様自身が、お客様とのコミュニケーションを積極的にとり、スタッフに見本となる接客姿勢を示すことが重要です。
    • スタッフの働きを認め、労うことで、チーム全体のエンゲージメントを高めます。
An Asian couple talking about cafe management policy

リピーター施策の効果測定と改善

施策は実施して終わりではありません。その効果を測定し、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回し続けることで、より効果的なリピーター育成が可能となります。

  • 顧客データの分析:
    • 来店頻度、利用金額、曜日・時間帯、注文傾向などを定期的に分析します。
    • 特定の施策(例: ポイントカード特典)を実施した後、どれくらい再来店率が向上したかを数値で把握します。
    • 誕生日のお客様の来店率や、DMを送ったお客様の反応率なども追跡します。
  • アンケートや直接の声の収集:
    • お客様からの意見や要望を積極的に収集し、数値では測れない「お客様の声」に耳を傾けます。
    • 「どのような点が良かったか」「改善してほしい点はないか」などを具体的に尋ねることで、顧客満足度の向上に繋げます。
  • PDCAサイクルを回す重要性:
    • 「どのようなお客様に、どのような働きかけをすれば、再来店に繋がるか」という仮説を立て、施策を実行し、効果を検証します。
    • うまくいかなかった場合は、その原因を分析し、改善策を立案して再度実行します。このサイクルを繰り返すことで、リピーター育成のノウハウが蓄積されていきます。

まとめ:常連客は「育て、育む」もの

本記事では、飲食店の常連客(リピーター)を増やすための具体的な施策と、実践的な接客術について解説いたしました。

料理人出身や現場出身のオーナー様は、料理や空間に対する情熱、そしてお客様への「想い」が非常に強いことと存じます。その「想い」こそが、お客様を惹きつけ、心を通わせる最大の原動力となります。

常連客は、一朝一夕に増えるものではありません。お客様一人ひとりのことを深く理解し、来店前から来店中、来店後に至るまで、心を込めたおもてなしを継続的に提供することで、少しずつ「育み」、信頼関係を築いていくものです。それは、まるで大切に育てた食材が、最高の一皿となる過程に似ているかもしれません。

お客様が「この店に来るとホッとする」「この店は自分にとって特別な場所だ」と感じてくださるような、温かい関係性を築くことができれば、必ずや店舗は地域に愛される繁盛店へと成長していくことでしょう。

皆様の店舗が、お客様にとってかけがえのない存在となることを心よりお祈り申し上げます。

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